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【第二章】“The Marshall Mathers LP”全曲解説【発売20周年】

コラム

第一章にて”The Marshall Mathers LP”(以下MMLP)がリリースされるまでの“流れ”を投稿しました。第二章からは収録曲の解説を掲載。
(※)歌詞の掲載は非常に”ややこしい“問題に繋がりますので掲載しません。ご理解ください。

アルバム収録曲の解説ですが長くなりそうなので6曲ごとに公開していきます。

The Marshall Mathers LP・トラックリスト

  1. Public Service Announcement[2000] ←今回の解説はココから
  2. Kill You
  3. Stan
  4. Paul[2000] – Skit
  5. Who Knew
  6. Steve Berman[2000] ←ココまで
  7. The Way I Am
  8. The Real Slim Shady
  9. Remember Me?
  10. I’m Back
  11. Marshall Mathers
  12. Ken Kaniff – Skit
  13. Drug Ballad
  14. Amityville
  15. Bitch Please II
  16. Kim
  17. Under The Influence
  18. Criminal

1曲目:Public Service Announcement [2000]

1stアルバムから引き続き Jeff Bass がアナウンス役として登場します。このスキットの構成は米国公共放送サービスである”PBS”(Public Broadcasting Service)のパロディ要素が含まれています。PBSは番組内にてスポンサーを紹介する際「 This program is brought to you in part by… 」という一節で締めくくるのですが、
「このパブリック・サービス・アナウンスメントはSlim Shadyの提供によりお届けします」とパロディしています。

「このアルバムを買った時点で、お前らはヤツの尻にキスをしたことになる」という部分があるが、これはエミネムの作品を”ゴミ扱いする批評家”をあざ笑いにする意味が込められています。このアルバムを買った時点で好きでも嫌いでも、エミネムに対しての対価が支払われており、否定的な意見を “気にする必要はない “ということです。

「Yeah、(気に食わないなら)訴えろよ」という言葉で完結。これは” The Slim Shady LP “(以下SSLP)収録曲の件で、実母 Debbie Mathers (デビー・マザーズ)と、元クラスメイトの D’Angelo Bailey (ディアンジェロ・ベイリー)から訴訟を起こされており、裁判沙汰に嫌気が差していた時期による影響です。

2曲目:Kill You

プロデューサー: Dr.Dre & Mel-Man
サンプリング曲:”Jacques Loussier” by Pulsion
この曲の制作は1999年10月、ヨーロッパ・ツアーが終わった頃。ドレーとの電話のやりとりから始まります。アルバムのオープニングを飾るこの曲は、主に母親、妻、女性全般に対する抒情的な暴言が散りばめられています。エミネムはなんとしてもこの曲をオープニング・ソングにしたかった。1stアルバムで度々ネタにしていた”貧乏ネタ”は繰り返し通用しないぞと言うメディアからの煽りに対して「ヤツらはもう貧乏ネタのラップはできないぞと言ったけど/コカインネタをラップするなとは言ってなかったよな」と強烈なラインから始まります。
エミネム自身が語るこの曲のポイントは

ぶっ飛んだことを言うのがこの曲の目的だった。俺が戻ってきたことをみんなに分からせるためさ。俺は何も失っていないし、何も妥協していない、変わってなんかいない。むしろ前よりも悪くなったぜ。

Eminem,”Angry Blonde”(2000年)

曲の終わりに「ハハハ、ただのお遊びだよ女の子たち。君たちの事を愛してる」と締めます。このフレーズは後に” White America “、” So Much Better “、” My Mom “、” Killshot “でも改変されて使われることになります。

2001年から2009年まで米国の副大統領夫人を務めたリン・チェイニーは”Kill You “の歌詞を引き合いにして、音楽販売の年齢制限を呼びかけました。彼女はエミネムと、特にこの曲に対して強く訴えていました。これに対して、3rdアルバム” The Eminem Show “のリードシングル” Without Me “にて攻撃の対象にされています。

2018年2月28日、全米レコード協会” RIAA “のシングル曲ゴールド認定を受ける。

Kill Youのサンプリング曲”Pulsion”

3曲目:Stan

プロデューサー: The 45 KING
サンプリング曲:”Thank You” by Dido

MMLPからの3rdシングル”Stan”は、巨匠 The 45 KING が、グウィネス・パルトロー主演映画”スライディング・ドア”(1998年公開)のサウンドトラックに収録されていたイギリス出身の歌手ダイドの楽曲”Thank You”を聞いたことがきっかけとなり作られました。

熱狂的なファン、スタンリー・ミッチェルという男がエミネムに手紙を送り、エミネムが返事をしてくれなかった事で、妊娠中の彼女を車のトランクに入れて橋の上まで車を走らせて自殺したというエピソードが歌われています。この行動は妻・キムを車のトランクに入れる内容が描写されいるSSLP収録曲の”Just the Two Of Us”に影響を受けている。ヴァース1から3まではスタンからエミネムへ向けたパートで、エミネムを愛していること、メジャー・デビュー前の初期作品まで聴きこんでいること、妊娠中の彼女よりもエミネムを愛していることを語っている。ヴァース4ではエミネムがスタンに向けた手紙の内容をラップしている。スタンの弟マシューにサイン入りのデンバー・ブロンコスの帽子をプレゼントするとも伝えている。手紙の最後には、死亡事件のニュースに登場した人物がスタンだったことに気づき「嘘だろ!」 と完結。

Stanリリース後、TVインタビューにてエミネムがこの曲について語っており

「(この曲の)本質はみんなから送られてく“行き過ぎたファンメール”のことで、病的なキッズの事を取り上げている。スタンは俺が手首を切りたいと言ったら、自分も手首を切りたいと言うようなヤツだ。俺の言うことを全て真に受けてしまう。彼は本当に狂っていて、俺の言うこと全てに共感してしまうんだ。曲の最後に彼は自殺し、ガールフレンドを崖から突き落としてしまうんだけど、それは本当にクレイジーなことなんだ。でも、これはファンへのメッセージのようなもので、俺の言葉の全てを”真に受けるな”ってことを知ってもらうためのものなんだ。」

ネット上で「スタンは実話だ」とする書き込みを見ることがありますが、スタンの曲中に描かれている出来事自体は事実ではありません。ただし元ネタは実在し、熱狂的な女性ファンがエミネムに遺書を送り付けて自殺するという話が元ネタだと言われています。

また、この曲には続きのヴァースがあったと、2011年Shade45のインタビューで語っている

「スタンが川から這い上がってくるヴァースもあった。彼は逃亡して俺の家に殺しに来るんだ。先に俺がスタンを殺さなければならなかったんだけど、彼を見逃した。彼は3週間ほど入院することになるんだけど、お見舞いの手紙を書かなかったことに腹を立てて再び俺を殺しに来る。最後のヴァースで、遂にスタンの頭を吹っ飛ばしてしまった。」

また、この曲はグラミー賞の歴史の中でも特に印象的なパフォーマンスを披露する曲にもなります。1stアルバム発売以降、エミネムの歌詞に含まれる”同性愛者差別用語”の使用に対し、米国のLGBT団体 GLAAD から避難されていました。当時、ゲイである事を公表していたエルトン・ジョンとスタンを共演することでバッシングを跳ね返すことになります。意外なことに二人の友情関係は今に至るまで続いている。2008年にエミネムが薬物中毒からのリハビリを決意した時、最大の支援者として彼を支えたのがエルトン・ジョンで、18か月に渡って支援しつづけた。2020年アカデミー賞の舞台裏で再会する。

Stanは何故Stanなのか。熱狂的なファン役として登場する架空の人物Stanley Mitchellの愛称スタンから来てる訳ですが、マイケルやジョン、ロバートでは無かった。海外ファンによる仮説ですが
“ストーカー・ファン”
“STalker fAN”⇒STAN説があります。

4曲目:Paul[2000] – Skit

1曲目の”PSA2000″と同様にSSLPからの続編として収録されたスキット。エミネムのマネージャー兼、弁護士ポール・ローゼンバーグとの電話のやりとりとなっています。SSLPバージョンのスキットでは、法的トラブルを避けるために「少しトーンダウンしてくれ」とエミネムに頼みますが、MMLPバージョンのスキットでは彼は言葉をかけることさえできません。1stと比べて多くの論争が待っている事を覚悟し、エミネムを諭す事を諦めてしまいます。

このスキットは、MMLPが前作SSLPよりも更に強烈な内容となっている事を示している。

5曲目:Who Knew

プロデューサー: Dr.Dre & Mel-Man
サンプリング曲:“The Kids (未発表デモ曲版)”

“Who Knew”はMMLP用に2番目にレコーディングした曲です。
この曲は『エミネムの曲が若者に悪影響を与えている』とする評論家への攻撃が狙いである。曲を通して『エミネムが若者へ与える影響』よりも他にも大きな問題があると指摘しています。(クリントン大統領スキャンダル、米国の銃問題、アイク・ターナーの暴行事件などなど)

MMLP制作中のエミネムの構想ではこの曲を1stシングルにしたいと思っていた。

6曲目:Steve Berman[2000]

プロデューサー: Dr.Dre & Mel-Man

このスキットのタイトル名にもなっているスティーブ・バーマンは実在する人物で、インタースコープ・レコードのセールス&マーケティング責任者である。エミネムは、ヒット曲を作らなければならないというレコード会社からのプレッシャーと、そのプレッシャーに応えて作った”The Way I Am”のイントロとしてこのスキットを盛り込みました。

スキット中のやりとりの中で

エミネム「アルバム発売初週の調子はどんな感じ?」
スティーブ「アルバムなんて出さないほうがよかったぐらい酷い」

というやり取りがありますが、現実は正反対の結果でアルバム発売初週売り上げ179万枚というソロ歌手販売記録を樹立し、世界最多記録としてギネスブックに認定されます。

スキット中に出てくるViolet Brown (ヴァイオレット・ブラウン)という女性はStrange Music, Incというヒップホップ・レーベルの重役です。

第三章に続きます。

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コメント

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