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【ビーフ】エミネム対ベンジーノを振り返る、ディス・ソング合戦

コラム

エミネム(Eminem)は今までのキャリアの中で様々な相手をディスし、ビーフ(対立)関係を抱えてきた。スパイス・ガールズやクリスティーナ・アギレラなどの女性アイドルや、ボーイズバンド、ロックバンドやラッパー。
“Without Me”のPVではイスラム過激派テロリストのビン・ラディンを挑発。2004年にリリースされた”Mosh”の曲中で、当時の大統領ブッシュ氏に対して「ファック・ブッシュ」と名指しでディス。別の曲でも大統領を非難した一節があり滞在的脅威として政府のシークレット・サービスによって調査されている。
2017年に”BETヒップホップ・アワード”で披露したフリースタイル”The Storm”でトランプ米大統領を痛烈にディス。9thアルバム”Revival”に収録されている”Framed”の件でもシークレット・サービスから事情聴取されている。
近年のラッパーとのビーフで名前が挙がってくるのはマシン・ガン・ケリー(Machine Gun Kelly)、ジョー・バドゥン(Joe Budden)といったところでしょうか・・・

しかし、エミネムの最大のビーフの一つは、アメリカのヒップホップ・メディアの重鎮レイモンド・”ベンジーノ”・スコット(Ray Benzino)との対立でした。

ベンジーノとのビーフが始まるきっかけ

2002年5月、エミネムが3rdアルバム”The Eminem Show”をリリース。
The Source誌のアルバム採点コーナーにて、5点満点中の4点という評価を受けた。しかし、エミネムは5点に値する作品だったと満足していなかった。彼はThe Source誌と、その共同オーナーであるベンジーノを非難し、エミネムが白人であることから5点の評価を貰えなかったと主張。

インタビューでThe Source誌を非難し、主演映画”8 Mile”のインタビューでもベンジーノとの面会を拒否。
2002年9月、プエルトリコのサンファンで開催された「第5回ミックスショー・パワー・サミット」に出席し映画”8 Mile”のプロモーションを行っている。この時、ベンジーノがバックステージに現れたがエミネムは面会拒否。
ベンジーノは後にインタビューでこの話をした後、フリースタイルで彼をディス。

第5回ミックスショー・パワー・サミットでのパフォーマンス

ベンジーノはエミネムへのディスソングをリリースして攻撃

その後、ベンジーノは”Pull Your Skirt Up“をリリースし、エミネムに対して
「2003年版バニラ・アイスをどうやってプレイするんだ?/俺に言わせれば、お前はマジで上手くないし、過大評価されてるんだよ」と攻撃。(※1)

The Source誌のアルバム評価に対するエミネムの反応にも言及し、
「ドレーに出会う前のお前は “Unsigned Hype”(無名の逸材)だった/俺がお前の小さなキャリアを産んだんだよ/レイ(ベンジーノのニックネーム。本名:レイモンド・スコット)のおかげでお前の人生は救われたんだ」(※2)

(※1)エミネムは同じ白人ラッパーの「バニラ・アイス」の事を毛嫌いしており、ベンジーノはエミネムの事を2003年版のバニラ・アイスとディス。

(※2)1998年、The Source誌のメジャー契約を結んでいない若手ラッパーを特集するコーナー”Unsigned Hype”のページにエミネムが掲載されています。メジャー契約をしていないラッパーにとって、”Unsigned Hype”に掲載されることはキャリアを大きく前進させることになります。

ベンジーノはこの曲を作った動機について聞かれると、次のように語っている
「俺はヒップホップ界でダブル・スタンダードを利用している”マシーン”(※3)にイラついていた。特定のメディアはエミネムの事をヒップホップの救世主とかヒップホップ界のNo.1と評価しているが、ヒップホップを築いてきた人たちを認識すらしていない」

ベンジーノはまた、次のようにコメントした
「エミネムは”マシーン”のための“Hood”(※4)の飾りに過ぎない。俺が股間を掴んで、彼のように人の顔にお尻を突っ込むことができると思うか?とんでもない。でも、彼の肌の色と目の色がアメリカの求めるものに合っている限りそれは問題ないんだよ」

(※3)ベンジーノが度々発言している「マシーン」という表現ですが、適切な訳が分からないのでカタカナ表記しています。“仕組み”とか“組織”ってニュアンスなんだろうと思いますが。。。

(※4)“Hood”の意味
ストリートに生きる、(都市部の)低所得者地域、ゲットー出身のやつ、近所、不良、輩
とても参考になるページがありました。

ベンジーノは更に”I Don’t Wanna“をリリース。その歌詞はさらに強烈で
「どれだけレコードが売れようと気にしない/メン・イン・ブラック(※5)無しでは“Hood”を歩くこともできないだろ/お前はビッチのママの軽蔑しているが/お前は叩かれて当然だ」

(※5)「メン・イン・ブラック」とは1997年に公開されたウィル・スミス主演の人気映画。この映画は、地球に住む宇宙人を取り締まり、監視する秘密組織に入隊した警察官の話です。この歌詞の中で意味する「メン・イン・ブラック」とは、おそらく“ボディガード”の事であり、「警護が無いとストリートも歩けないだろ?」ってニュアンスです。

エミネムもディス・ソングで応戦

ベンジーノへのディス・ソングとして”Invasion“、”The Sauce“、”Nail in the Coffin“をリリース。ベンジーノの“ラップスキル”、“年齢”、“ギャング的行為”、“怪しげなビジネス”などをからかっていました。

ラジオ番組”Hot97″とのインタビューでエミネムは次のように述べている
「俺はこの男。。。いや、この女には会ったことがない。彼女は俺に夢中なんだ。世界で最悪のラッパーが、最高のラッパーの一人に対抗する姿を見る日が来るとは思ってもみなかったよ」

エミネムのファンから批判を受けながらも対立を深めていく

エミネムからのディス・ソングとインタビューを受けて、ベンジーノはエミネムの代表曲である” Lose Yourself “のパロディ・ソング”Die Another Day“と”Better Lose Yourself”をリリース。その歌詞は、エミネムと娘「ヘイリー」の命を脅迫するような、より暗く、より不穏な内容へと変化して行きました。
「ヘイリーにもう安全じゃないと伝えてくれ/パパはお菓子屋さんに気をつけてね/俺たちはめちゃくちゃで、プランBに頼ることにした/ジョン・ベネ・ラムジー(※6)のようになってしまうぞ」

また”Die Another Day”の中では
「お前は“ラップ・デービッド・デューク”であり“ラップ・ヒトラー”だ/文化を盗む者、黒人はお前に共感しない」(※7)

(※6)ジョンベネ殺害事件
ジョンベネ殺害事件は、1996年12月26日にアメリカ合衆国のコロラド州ボルダーで起きた殺人事件。また、アメリカで最も有名な未解決事件の1つ。
ベンジーノは、ヘイリーがジョン・ベネット・ラムジーと同じ運命をたどるかもしれないと警告。2012年、ベンジーノは「 Global Grind TV 」のインタビューで、ヘイリーへの言及について謝罪した。

(※7)
デービッド・デュークとは-Wikipediaより
デービッド・アーネスト・デュークは、アメリカ合衆国の白人国家主義者、政治家、反ユダヤ主義の陰謀論者、ホロコースト否認論者、クー・クラックス・クランの元最高幹部。

アドルフ・ヒトラーとは-Wikipediaより
ドイツの政治家。ドイツ国首相、および国家元首であり、国家と一体であるとされた国家社会主義ドイツ労働者党の指導者。 1933年に首相に指名され、1年程度で指導者原理に基づく党と指導者による一極集中独裁指導体制を築いたため、独裁者の典型とされる。

この時期、エミネムのファンからの批判を受け、ラジオ局はベンジーノの曲を放送しなくなっていた。しかし、このビーフから引き下がるつもりはなく、自分の雑誌をエミネム批判のためのプラットフォームとして利用し始めた。

娘を攻撃されたエミネムも当然激怒し、DMXとの共演曲” Go to Sleep “という曲ではベンジーノをディスしただけでなく、50セントとビーフ関係であったJa Ruleへの攻撃も含まれていた。DMXもJa Ruleとビーフ関係であったため共演が実現。
また、エミネムはThe Source誌のライバル誌である”XXL”誌の表紙を飾る。ヒップホップ界の2大雑誌をも巻き込むビーフに発展することになる。

50セントとジャ・ルールのビーフに加勢する

The Source誌と良い関係だったジャ・ルールはエミネムに対してディス・ソングをリリースする。50セントはエミネムのレコード・レーベル”Shady Records”/”Interscope”とメジャー契約する前からジャ・ルールと対立しており、50セントに救いの手を差し伸べたエミネムに対して不満があった。
Loose Change“という曲を発表し、エミネムの娘ヘイリーを侮辱。
「エム、お前の母親はコカイン中毒者だし/そしてキムはヤリマン女だろ/ヘイリーが成長した時、彼女はどうなってんだろうな?」(※8)

(※8)このフレーズはShady Records総力戦のディス・ソング「 Do Rae Me 」のイントロ部分にもそのまま使われています。

2003年、エミネムとShady Recordsは、G-Unitをフィーチャーした”Bump Heads“(8Mileのスペシャルエディション特典CDに収録)、D12&Obie Trice(オービー・トライス)をフィーチャーしたDoe Rae Me、50セントをフィーチャーした”Hail Mary“、”The Conspiracy Freestyle”など、ジャ・ルールとベンジーノ二人を狙ったディス・ソングで反撃に出ました。

Shady Recordsの曲に反応したベンジーノは、エミネムと50セントの両方をディスした”Fallin’ Down“をリリース。また、別のディス・ソング”G-Unit Killa’z”ではジャ・ルールがベンジーノを共演に迎えタッグを組んだ。

ベンジーノ、エミネムの汚点を探し出す

ベンジーノはエミネムが10代の頃に制作した”Foolish Pride”と”So Many Styles”いう曲を探し出した。
2003年11月18日、記者会見を開き一部を演奏。その音源は2004年1月初旬に発売されたThe Source誌の2月号に付属される事になった。この曲は人種差別的な内容となっており、The Source誌のウェブサイト上で公開し歌詞も雑誌に掲載した。
問題視された歌詞の一部は以下

「彼女は俺のガールフレンドで俺たちは付き合い始めた/でも、俺たちは白人と黒人だったけどそれでいいんだ/白人と黒人が混じることもある/でも黒人の女はバカだから金が欲しいだけなんだよ/だから言ってやるよ黒人の女の子とは付き合わない方がいいって」

当時のネットニュースの記事を見つけましたので、リンクを張っておきます。

The Source誌の会見と同日、エミネムも謝罪コメントを発表。

「今日流されたテープは、俺が10代の頃に“怒り”と“愚かさ”と“フラストレーション”から作られたものだ。アフリカ系アメリカ人のガールフレンドと別れたばかりで、怒りに任せた愚かな子供のような行動を取ってしまった。それが愚かな行為だったということを人々が受け止めてくれることを願っている」

2004年にリリースした4thアルバム”Enocre”に収録されている”Yellow Brick Road“は、”Foolish Pride”で物議を醸したことへの謝罪と説明のための曲である。制作に至った経緯についても言及している。

1989年、エミネムとキムが出会い付き合いだした頃エミネムは16歳、キムは14歳だった。2人は短期間で別れており、エミネムはアフリカ系アメリカ人の別の女性とデートすることになった。しかし、彼らの関係も長くは続かず、二人が別れた日、エミネムは人種差別的な “Foolish Pride”をレコーディングすることにした。

2004年にローリング・ストーンズ誌に以下の通り説明

「これは俺たちがよくやっていたことだ。友達の地下室に行って、ふざけたフリースタイルをやっていたんだけど、俺たちはそれを“使えないライム”と呼んでいた。その日はそれが話題になっていたんだ。黒人のガールフレンドと別れたばかりだった」

Yellow Brick Road“の次の曲”Like Toy Soldiers“の曲中ではベンジーノ、ジャ・ルールとのビーフから“誰かが命を落とすことになる前に手を引く”としている。

“Like Toy Soldiers”のリリースを受けて、ベンジーノは”Built For This”をリリース。休戦を求めるエミネムの呼びかけに対して、ベンジーノは休戦を拒否しています。
2005年、エミネムはオービー・トライスとのコラボ曲”I’m Gone”を最後にこのビーフに終止符を打ちました。

それから7年後の2012年、ベンジーノがMTV RapFix Liveに出演。

「今になって言えるのは、俺が間違っていたということだ。対立が終わった今言えるのはエムは偉大な作詞家で、みんなと同じように彼のヒップホップ・自己表現を見守るべきだった。エムは今でも自分の仕事をしていて、ヒップホップに大きな影響を与えている。今やヒップホップは、白人、黒人、ラテン系、アジア系、すべての人のための文化の架け橋になっている。当時の俺はおそらく怒りっぽい人間だった 。もしそれで誰かを怒らせてしまったのならヒップホップに謝罪したい」

エミネムのキャリアの中でも最大のビーフです。The Source誌が”Foolish Pride”の音源を公開した時、エミネムサイドが間違った対応をしていたらラッパー生命が終わっていたと思います。
当時はYoutubeもなかったので、アメリカのエミネムのファンサイトにアップロードされたMP3を聞くのをワクワクしていた記憶があります。”Do Rae Me”、”Hail Mary”、”Bully”、”The Sauce”あたりをよく聞いてました。
ビーフのきっかけを振り返ると、エミネムも大人げないと思う面もあるし、ベンジーノもそりゃ怒るだろと。。。ただ、ベンジーノはちゃんと謝罪をしているんですよね。これは知らなかったです。

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