“The Marshall Mathers LP”発売20周年・全曲解説企画もいよいよラストです。最終章では13曲目の”Drug Ballad”から18曲目の”Criminal”を解説。
(※)歌詞の掲載は非常に”ややこしい“問題に繋がりますので掲載しません。ご理解ください。
The Marshall Mathers LP・トラックリスト
- Public Service Announcement[2000]
- Kill You
- Stan
- Paul[2000] – Skit
- Who Knew
- Steve Berman[2000]
- The Way I Am
- The Real Slim Shady
- Remember Me?
- I’m Back
- Marshall Mathers
- Ken Kaniff – Skit
- Drug Ballad ←今回の解説はココから
- Amityville
- Bitch Please II
- Kim
- Under The Influence
- Criminal ←ココまで
13曲目:Drug Ballad Feat.Dina Rae
プロデューサー:Bass Brothers & Eminem
サンプリング曲:“Dreaming About You” by The Blackbyrds
日本版CDに付属される日本語訳ブックレットには「(歌詞対訳は)アーティストの意向により掲載されておりません」ということで唯一日本語訳が掲載されていない曲です。(個人的には作詞した本人が訳を載せないように頼むか?と思ってます)
「これは俺のラブソングだ」
アルコール、有機溶剤、エクスタシーなど様々な”ドラッグへの愛と憎しみ“についてラップしている。エミネムは体に詰め込めるものは基本的に拒否しないタイプで、2008年にリハビリ施設を退所し断酒に取り掛かるまでその関係は続いた。2007年のクリスマス頃、友人からもらった”種類も分からない薬“を飲み、デトロイト・メディカル・センターに搬送。結果、ヘロイン患者用の薬”メタドン”の多量摂取と診断された。搬送が2時間程遅れていたら手遅れになっていた。この出来事を再現した曲が5thアルバム”Relapse”に収録されている”Deja Vu”である。
エミネムは”Drug Ballad”について以下の通り語っている
「この曲は、ある日ふざけて作った曲の一つなんだ。20分くらいでライムを書き上げた。3つのヴァースすべてさ。フックはシンプルだった。ベースラインは俺がジェフに鼻歌を聴かせて作ってもらった。去年の俺はいつもめちゃくちゃだった。(売れてからの)生活が俺にとって盛大なパーティーみたいなものだった。初めて売れた年でたくさん祝ってもらってたから」
1stアルバム”SSLP”収録曲” Cum On Everybody”に引き続きディナ・レイと共演しており、イントロ部分は”Cum On Everybody”からのオマージュも含まれている。
ヴァース1では主にパーティーについて。ヴァース2ではどのようにして中毒になり始めたのか、そして中毒がどのように進行しているのか。ヴァース3は、ほぼ二人称で歌われており、薬にハマっている自分の行動を振り返っているが。。。最終的には「今は良質なドラッグがあるし/これからどんどん成長していくぜ」と反省どころか、今後もキメて行くと決意表明。
14曲目:Amityville Feat.Bizarre
プロデューサー:Bass Brothers & Eminem
サンプリング曲:“The Sorcerer of Isis” by Power of Zeus
“Amityville”(アミティビル)とはニューヨーク州サフォーク郡にある町の名前で、2005年に日本でも公開された”THE AMITYVILLE HORROR”(邦題:「悪魔の棲む家」)の舞台にもなっています。(原作は1977年公開)
映画の中では、この家が部族の埋葬地に建てられていたことから、悪魔的なことがたくさん起こっていました。恐ろしい出来事が日常的に起こる有り様に対して、デトロイトはアミティビルの現実版のようなものだと言っています。
この曲は制作時の予定ではOutsidaz (アウトサイダーズ)のメンバーであるYoung Zee(ヤング・ジー)とPacewon(ペイスウォン)がフィーチャーされる予定だったが、ドクター・ドレーから「アルバムにフィーチャーが多すぎる」と指摘が入り、彼らのヴァースを削除することになった。
これにより、エミネムとペイスウォンの間に溝ができてしまう。その後、ペイスウォンがエミネムへのディスソングもリリースすることに。
「俺の最初のヴァースとBizarre(ビザール)のヴァースはテーマに沿ったものではなかった。「Yo! デトロイトの事を歌にしよう」ってことで、最後のヴァースで全てをまとめたんだ。レーベルの連中はビザールのヴァースを嫌がっていた。だから、俺たちは正しいことをしたと思ったよ」
15曲目:Bitch Please II Feat.Dr. Dre, Snoop Dogg, Nate Dogg & Xzibit
プロデューサー:Mel-Man & Dr. Dre
サンプリング曲:“Bitch Please” by Snoop Dogg (Ft. Nate Dogg & Xzibit)
“Bitch Please II”は、”The Marshall Mathers LP”収録曲の中でも特に人気の曲です。1999年に発売されたスヌープ・ドッグのアルバム” No Limit Top Dogg”に収録されている”Bitch Please Feat. Xzibit,Nate Dogg”の続編として作られており、新たにドクター・ドレーとエミネムが加わっている。また、スヌープ・ドッグとエミネムの唯一の共演曲でもあります。
ヴァース1のドクター・ドレーのリリックはエミネムがゴーストライティングしたという説が有力です。
(ドレイクはデビュー前にドクター・ドレーのゴーストライターとして雇われていた)
16曲目:Kim
プロデューサー:Bass Brothers
サンプリング曲:“When the Levee Breaks” by Led Zeppelin
「メディアお気に入りのこの曲は、実は” MMLP”のために書いた最初の公式曲だったんだ。1stアルバムが出来上がった1998年には完成させてた。
この曲は、俺とキムが別れていた時に書いたモノで1998年の終わり頃さ。ある日、映画を見ていてラブ・ソングを書こうと思ったのを覚えている。どんな映画だったかは覚えていないけど、キムと別れたことや娘がいることへのもどかしさを感じたのを覚えている。俺は本心をぶちまけたかったし叫びたかった。だから、映画を観に行った日にスタジオに戻って、完璧なビートが流れているセッションに入ったんだ。驚くべきことにアルバムの中で唯一、自分が作曲に関わっていない曲が”Kim”だったんだ。この曲はベース兄弟が作ってくれたもので、既にスタジオで俺のために作ってくれていた。曲を書き始めた時、”’97 Bonnie and Clyde”に結びつけられるかもしれないと思ったんだ。だから、(Kimを)前篇曲にしようと思った。
想像つかないだろうけど、彼女と仲直りした時に聞かせてみたんだ。感想を聞かせてくれと頼んだ。 「この曲がめちゃくちゃな曲なのは分かってるけど、お前(キム)のことをどれだけ大切に思っているかが分かると思う。お前のことをどれだけ考えているかを表現している」と言ったのを覚えている。ボーカルは一発で収録した。俺とキムの口喧嘩のようなムードを表現したつもりだったんだか、メディアの注目度から判断すると思った通り成功だったようだ」
曲中で、キムと(キムの)浮気相手の男を殺している。
リリースから20年経った今、この曲をどう思っているのか?
エミネムは4thアルバム”Encore”以降のアルバムで、元妻キムの名前を曲中でほとんど挙げていません。また、”The Marshall Mathers LP2″の”Headlights”の曲中で、彼は母親に向けた曲”Cleanin’ out my Closet”について
もうライブでは流さないよあの曲は
The Marshall Mathers LP2/「Headlights」
ラジオで流れてくるたびに涙が出てくる
と身内の女性に対する心境の変化をラップしている。エミネムとキムは2006年に二度目の結婚をしたことや、キム自身が辛い経験をしてきたこと、エミネムがキムへの誹謗中傷を含む曲を演奏しなくなったことから、母親に対する感情と同じように後悔しているのかも知れません。
17曲目:Under The Influence Feat.D12
プロデューサー:Bass Brothers & Eminem
サンプリング曲:“Give In to Me” by Michael Jackson (Ft. Slash)
“MMLP”に収録されているD12とのコラボレーション曲。エミネムのキャリアの中でも最も悲惨で生々しい曲”Kim”に続くナンバリング曲となっている。感情的で重いテーマの”Kim”に比べて、”Under the Influence”は軽快な曲です。アルバムのバランスを取った曲であり”Kim”の悲惨さに対する批判に応えるという目的も兼ねています。
俺の曲が気に入らないなら、俺のチンコを咥えろ
The Marshall Mathers LP/「Under The Influence」
これを書いた時はハイになってたんだ/だから俺のチンポを咥えるんだ!
18曲目:Criminal
プロデューサー:Bass Brothers & Eminem
サンプリング曲:“Scenario” by A Tribe Called Quest(Ft. Leaders of the New School)
『”Criminal”は、MMLP版の新しい”Still Don’t Give a Fuck”なんだ。だから”Still Don’t Give A Fuck”と同じイントロにしたし、同じようにこの曲がアルバムの最後の曲になる。アルバム全体をまとめているんだ。
“Marshall Mathers”を作った後、まだ”Still Don’t Give a Fuck”の感覚が掴めていないような気がしたんだ。マネージャーのポールに聞かせたんだけど、彼は「いい曲だけど、まだ “Give a Fuck “じゃない」と言っていた。
面白い出来事が起きたのは、(スタジオから)脱獄しようとした時だ。俺たちはその日、スタジオを出ようとしていたんだ、何も思いつかなかったからさ。ジェフは隣のスタジオで古いピアノを弾いていた。彼は”Criminal”に不吉な雰囲気を与えた狂気じみたピアノ・ループを弾いていた。(その時)思いついていたのは”I’m a criminal”って部分だけで、まだ詩を書き終えていなかった。だから俺はライムを書き始め、20分もしないうちにフックと最初の2つのヴァースを作ってスタジオを出た。家に帰って、最後のヴァースを仕上げたよ。
その後、アルバムが完成する直前にスキットを入れた。銀行強盗のスキットを作るのに丸一日かかったのが唯一の失敗だった。ドレーでさえ「もういいや、俺は降りる」と言ってスタジオを出て行ったんだ。メルマンが酔っ払っていて、セリフを正確に言わせる必要があったんだけど「誰も殺すなよ 」と言わせた。
でも、本当に時間がかかったのは背景の雑音だった。一人で仕上げたんだ。”Guilty Conscience”の時にドレーに教わったのさ。』
ヴァース1は、同性愛嫌悪と暴力的な内容の歌詞になっています。イントロでも語っている通り、この曲でラップしていることは真面目に受け止める必要はなく、エンターテイメントと現実の生活を見極めることができず、エミネムの事を“実際の犯罪者“として見始めた人たちを釣るためのエサになっています。
ヴァース2とヴァース3の合間のスキットでは、フックがBGMで繰り返される中、エムが銀行強盗をする様子が描かれている。逃走中の運転手役(声:プロデューサー「メルマン」)に「誰も殺すなよ」と忠告される。
出納係(声:リサ・ジー)にも「殺さないで、お願いだから」と懇願されたにもかかわらず、お金を手にしたシェイディは彼女を射殺し彼女に感謝している。
このアルバムの続編である”The Marshall Mathers LP2″の2曲目”Parking Lot (Skit)”は”Criminal”の銀行強盗スキットの続きになっている。
この曲のレコーディング中に、娘のヘイリー・ジェイドが”My dad’s gone crazy!”と言いながら歩き回っていたことが、2年後に”The Eminem Show”でリリースされた”My Dad’s Gone Crazy”のインスピレーションになる。
コメント
はじめまして。
16曲目のKimの解説に誤りがあるかと思われます。Encore以降、EmはKimの名前を挙げていないとのことですが、2017年にリリースされたRevivalに収録されているBad Husbandという曲の3バース目にI’m sorry Kimからはじまる節があります。
ダブルミーニングを用いてKimを連想させるようなリリックは過去にいくつかありますが、当該の曲では彼の前妻への率直な思いが綴られています。私個人の意見としては、when I’m goneやmockingbird、headlightsなどと並び立つ曲だと思います。
ご指摘ありがとうございます。
訂正いたします。
[…] 【第二章】“The Marshall Mathers LP 20周年” アルバム解説(下) スポンサーリンク タグ:MMLP20, MMLP20周年, The Marshall Mathers LP, The Real Slim Shady, The Way I Am […]