エミネムの2枚目のメジャー・アルバム”The Marshall Mathers LP”発売20周年・全曲解説企画。第三章では7曲目の”The Way I Am”から12曲目の”Ken Kaniff – Skit”を解説。
(※)歌詞の掲載は非常に”ややこしい“問題に繋がりますので掲載しません。ご理解ください。
The Marshall Mathers LP・トラックリスト
- Public Service Announcement[2000]
- Kill You
- Stan
- Paul[2000] – Skit
- Who Knew
- Steve Berman[2000]
- The Way I Am ←今回の解説はココから
- The Real Slim Shady
- Remember Me?
- I’m Back
- Marshall Mathers
- Ken Kaniff – Skit ←ココまで
- Drug Ballad
- Amityville
- Bitch Please II
- Kim
- Under The Influence
- Criminal
7曲目:The Way I Am
プロデューサー: Eminem
サンプリング曲:無し
“MMLP”からの2ndシングル“The Way I Am”
この曲は様々な“怒り”が詰まった曲で
有名になることで私生活に支障をきたしている事への不満(※1)、評論家(※2)、レーベル上層部(※3)、コロンバイン事件の件でマリリン・マンソンに集中攻撃をしたメディア(※4)へのフラストレーションをぶちまけている。
(※1)”少しは礼儀として/お前らも俺の事をそっとしておいてくれ/お前ら狂人が街で俺を見かけても/食事をしてたり娘に食べさせてる時には/近づかないでくれ/話しかけんな/”
“トイレに行ってもクソすらまともにできないんだぜ/必ず誰かがそこにいやがるんだ”
(※2)”あの歌詞の内容/“ Guilty Conscience ”の評価は最悪だった/(なんて言うやつもいる)”
(※3)”ふざけたこと言うのはやめろよ/“ My Name Is ”を超えるヒット作は作れないって”
(※4)”いじめられっ子が学校で銃を乱射したら/ヤツらはマリリンとヘロインのせいにしやがった/いじめられっ子の両親は何をしてたんだよ?”
1stシングルとして先にリリースされた”The Real Slim Shady”よりもダークで単調なピアノループサウンドを特徴としています。1stシングル⇒ポップテイスト、2ndシングル⇒ダークテイストのパターンはエミネムのアルバムリリース時のお馴染みのパターンです。この曲はエミネムが初めてセルフプロデュースした曲で、イントロの”ドレー、回してくれ/Ayo!ビートを少し上げてくれ”の部分は、” Dr.Dre “にビートを上げるよう指示することで、エミネムのプロデューサーとしての新たな側面を表現している。
【第一章】でも触れたがこの曲の制作の背景は、インタースコープ・レコード上層部から「先制パンチになる”シングル曲“がない」というエミネムに対する圧力に反抗する曲として仕上がった曲です。
MVにはマリリン・マンソンが登場、フィーチャリングした公式リミックス曲も存在している。共演のきっかけは
- エミネムとマンソンは共にインタースコープ・レコード所属のアーティスト
- エミネムは“ヒップホップ界のマリリン・マンソン”にしようとメジャー・デビュー時に構想されていた
- マンソンが「コロンバイン高校銃乱射事件」の件で、アメリカのメディアからスケープゴートにされていたことに心を痛めていた。
この曲はアナペスト(弱弱強格)リズムによる韻脚を用いた曲でラップソングとしても珍しい。アナペストとは2つの弱い音節の後に1つの強い音節を繰り返す技法。これを(弱弱強格)と表現。
Hook(サビ)のパートはEric B. & Rakimの楽曲”As The Rhyme Goes On”の影響を受けている。
2018年2月28日、全米レコード協会”RIAA“のシングル曲プラチナ認定を受ける。
8曲目:The Real Slim Shady
プロデューサー: Dr.Dre & Mel-Man
サンプリング曲:無し
曲名や、Hook(サビ)のフレーズはK-Soloが1990年に発表した曲”Real Solo Please Stand Up”の影響を受けている。
”The Real Slim Shady“は”MMLP“の収録曲の中で最後に仕上がった曲です。
アルバム制作大詰めの会議にてインタースコープの上層部は”Criminal“を1stシングルにしようと話を詰めていた。そこで少し時間を欲しいと頼み込み、その二日後に滑り込みで仕上がった曲が”The Real Slim Shady“だ。フックのフレーズは以前から考えついていたが、上手くまとまるのか半信半疑で作曲まで至っていなかった。
後が無い状態になったことで、このフックをベースに曲作りに入りビートを手あたり次第試した結果、ドレーのスタッフの一人が冒頭部分になる音を弾き始めたことで制作に取り掛かる。
ディス祭り
この曲で攻撃の対象になった主な人物はWill Smith(ウィル・スミス)、Britney Spears(ブリトニー・スピアーズ)、Christina Aguilera(クリスティーナ・アギレラ)、ボーイズ・バンド(LFOやN’Sync)、Tommy Lee(トミー・リー)、Pamela Anderson(パメラ・アンダーソン)など。。。
エミネムがポップアイドルを攻撃する理由は、白人ということでファン層が重なるためアイドルと同じ類にされることを避けるためです。
ヴァース2の始めにウィル・スミスをディスする部分があるが、1999年MTVビデオ・ミュージック・アワードで、エミネムの”My Name Is”を抑えてウィル・スミスの”Miami”が最優秀男性ビデオ賞受賞後のウィルのスピーチの中でギャングスタ・ラップやFワードを乱用するスタイルのラップを非難していた。
ウィル・スミス「僕は自分の曲の中で人を殺したことは一度もない。曲の中でみだらな言葉を使ったこともないし、それでもなんとかここまで来れたよ」
これに対してエミネムは
「俺はウィル・スミスを尊敬していた。だけど、今はラップ・ジャンル全体を否定している。彼はギャングスタ・ラップも否定したんだ。ギャングスタ・ラップは最も影響力のある音楽の一つだぜ。彼の意見にも敬意を表するが、誰もがウィル・スミスのように幸せになれるわけではない。誰もが彼のように人生をハッピーでポジティブに捉えているわけではない」
もう少し深堀すると、1stアルバム”SSLP”に収録されている曲”97′ Bonnie & Clyde”はウィル・スミスの”Just the Two of Us” をサンプリングした曲で、この件でウィル・スミスは不満だった。”DJ Jazzy Jeff”によるとウィル・スミスが
「お前は今までで一番の出来損ないか、今までにない最低の出来損ないかのどちらかだ 」
とエミネムに対して忠告。反撃のきっかけを待っていたエミネムが、MTVアワードでのウィルのスピーチを絶好のネタに攻撃。”Forgot About Dre”のMVでもウィル・スミスをからかう場面がある。
クリスティーナ・アギレラをディスした経緯を説明すると、”The Real Slim Shady”の制作に入る数日前にアギレラがMTVに出演。その際に、エミネムが結婚していることを公表。当時、妻がいることを公表していなかったエミネムが激怒しディスすることに。
「クソ、クリスティーナ・アギレラと席を交換だ/カーソン・デイリーとフレッド・ダーストの間に座らせるんだ/あの女がはじめに咥えたのはどっちなのか言い争っているのを見たいんだ/リトルビッチめ、MTVではコケにしてくれたな/”うん、彼はかわいいけど、彼はキムと結婚してるみたい、ヒーヒー」
「あの女の音声をMP3でダウンロードして/どうやってエミネムに性病を移したのか世界に知らせてやる」
limpbizkitのフレッド・ダーストがMVに友情出演。当時、フレッド・ダーストはインタースコープ・レコードの副社長でもありました。
2018年2月28日、全米レコード協会RIAAのシングル曲プラチナ×4認定を受ける。
9曲目:Remember Me? Feat.Rbx,Sticky Fingaz
プロデューサー: Dr.Dre & Mel-Man
サンプリング曲:“I’m Shady” by Eminem” A.W.O.L. ” by RBX 他多数
RBXはDr. Dre(ドクター・ドレー)のソロデビュー・アルバムであり名盤中の名盤”The Chronic”に7曲フィーチャリング参加。ドレー・サウンドを表現するベストなラッパー。
Sticky Fingaz はRun-D.M.C. の Jam Master Jay に見出され、彼のレーベルJMJ Recordsと契約しヒップホップ・グループOnyxに加入。
この曲のフックはRBX、Sticky Fingaz、Eminemそれぞれの過去曲で使用したフレーズがサンプリングされています。
RBXは1995年の曲”A.W.O.L. “と”High Powered”からフレーズをサンプリング。スティッキーのフックは、Onyxの” Throw Ya Gunz”と”Slam”から。
エミネムのパートでは” Just Don’t Give a Fuck”、”Still Don’t Give a Fuck”、”Low Down, Dirty”、”I’m Shady”からサンプリング。
ヴァース2のスティッキー・フィンガーズのパートは、MMLPの翌年に発売されるドクター・ドレーのアルバム”Chronic 2001″用に収録される予定だったが、エミネムがMMLPに欲しいと熱望。ドレーはスティッキーを自身のレーベルAftermath Recordsに加入させようとしていた。
スティッキー・フィンガーズによると、エミネムは自分のヴァースをスティッキーに負けないようにと何度も書き直したそうです。スティッキーがインタビューで「今まで一緒に仕事をしてきた中で一番好きなラッパーは誰ですか?」という問いに対して以下の通り語っている。
「エミネムのファンだよ。彼は2ヶ月もかけて”Remember Me?”で俺の後に来るヴァースを作ったんだ。俺の詩は一日で書きあげたけどね。普通のラッパーだったら諦めたり、順番を入れ替えて俺のパートを最後にしたりするだろうけど、エミネムは才能があるから、自分のヴァースを熱くするために時間をかけたんだよね」
10曲目:I’m Back
プロデューサー: Dr.Dre & Mel-Man
サンプリング曲:“My Name Is” by Eminem
“MMLP”からの4thシングル曲。アルバム制作段階ではドレーとエミネムはこの曲がファースト・シングルになると考えていた。(“Who Knew”も候補に)
発売20周年を記念して行われたファンセッションの中で、エミネム自身の好きなヴァースとして”I’m Back”のヴァース2がお気に入りであると答えている。
このコラムの中で度々伝えている“インタースコープの上層部からの圧力”の原因の一つはこの曲で、ヴァース3の冒頭で「コロンバイン高校の生徒たち」に触れる歌詞があるが、この部分は”無音規制“がかかっている。この曲について以下の通り語っている。
「”I’m Back”のコロンバインの件で面倒なことになって、レーベルからその部分を変えるように言われてた。俺が言いたいのは、そこまで大きな問題なのかってことだ。特別珍しいことじゃない。4歳の子供が溺死するのとは対照的に、なぜこの話題についてこんなに騒がれるんだ?なぜそれが大きな悲劇とみなされないのか?都会ではいつも人が死んでいる。撃たれたり、刺されたり、レイプされたり、強盗に遭ったり、殺されたり……。コロンバインはいつも起きているアメリカの悲劇とはどう違うんだ?」
そしてこの部分のフロウはエミネムがリスペクトしている Rakim (ラキム)の”My Melody”からサンプリングしている。
エミネムは幼少期に度々いじめにあっており、その経験からコロンバイン事件の銃撃犯の心情にリンクさせている。
11曲目:Marshall Mathers
プロデューサー: Bass Brothers & Eminem
サンプリング曲:無し
アルバムタイトル曲であり、エミネムの本名から取られた同曲は、メジャー・デビューアルバム”The Slim Shady LP”発売で大成功を収めた後に、彼の人生に起きた”混乱“について取り上げた曲です。SSLPで実母 Debbie Mathers を侮蔑した事が原因で名誉毀損で訴えられたことについても取り上げています。
「2ndアルバムを作っている時に”I Don’t Give a Fuck, Part 3″を作りたいと思ったんだ。FBTのジェフがアコースティック・ギターを弾いてて” 俺はただのマーシャル・マザーズなんだ “ってフックを歌い始めた。スタジオでふざけたことをするたびに、最高のフレーズを思いつくのは病的だ。俺たちは笑いながらふざけたことを言いあってて『Yo そのフレーズは使うべきだ。最高だ』と言ったよ。
コーラスを考えている時に、ヴァースの中では自分の事と自分の意見(※1)について書こうと思った。だから、ヒップホップの最新トレンド(自分とは無縁だけど)から、インセイン・クラウン・ポッシーのこと、母親のこと、俺の事を知りもしないで近くに来たがる親戚のこと、なんでも触れてみたんだ。各ヴァースで火を吐いて、柔らかい無邪気なコーラスが欲しかった。この曲をレコーディングしている時に、アルバムタイトルを”The Marshall Mathers LP”と呼ぶことに決めた」
(※1)ヴァース1では2PacとThe Notorious B.I.G.について触れており、ビギーとパックが殺されたことに対する彼の怒りをラップしている。ヴァース1の冒頭に出てくる”公園散歩”の下りは、当時エミネムが住んでいた自宅付近での出来事だ。
「当時は“Hayes Street ”(ヘイズ・ストリート)という大通りに住んでいて、いろんな人たちがいつも家のドアをノックしに来ていた。1stアルバムが400万枚売れて、やっとお金が手に入ったんだ。『家があるぜ、裏に駐車もできるぞ』と思ったのを覚えている。自分の家と呼べる本当の家を手に入れたのは人生で初めてのことで『誰も俺を追い出すことはできない』と思ったよ。通りの向かいにはクソったれのトレーラー・パークがあったかな」
自伝”The Way I Am”(日本未発売)より
12曲目:Ken Kaniff (Skit) [2000]
プロデューサー: Eminem
サンプリング曲:無し
このスキットの登場人物3人の声はすべてエミネムが担当しており、架空のゲイ・キャラクターKen Kaniff(ケン・カニフ)と、ヒップホップ・デュオInsane Clown PosseのメンバーShaggy 2 DopeとViolent Jを登場させている。
エミネムとインセイン・クラウン・ポッシーの確執の始まりは1995年に遡ります。当時エミネムが出演する予定だったイベントの告知チラシに「もしかしたら。。。ICPも出演」と記載。この文言に対してICPが激怒しビーフが始まったと言われている。その後、エミネムがデトロイトのクラブからICPを放り出したとされる “クラブ事件 “があった。2000年4月にICPが”Slim Anus”というエミネムへのディスソングをリリース。それに対する報復として”Marshall Mathers”とこのスキットソングでICPを叩いています。
インセイン・クラウン・ポッシーもエミネムと同じくデトロイト出身。白人二人のヒップホップ・デュオです。
最終章に続きます。
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