01 / 1958 / THE ORIGINAL RECORD
HITCHCOCK
恐怖を、娯楽に変える
1958年、Alfred Hitchcockの語りとJeff Alexanderの音楽が、不穏な題材をレコードの娯楽に変えた。映画一本のサウンドトラックではなく、後のEminem作品とは別のアルバムだ。


EMINEM / THE ELEVENTH STUDIO ALBUM
ミュージック・トゥ・ビー・マーダード・バイ
EMINEM17 JANUARY 2020
ORIGINAL / 20 TRACKS ↗HITCHCOCK MEETS EMINEM
1958年の声が、2020年を始める。
01 / 1958 / THE ORIGINAL RECORD
恐怖を、娯楽に変える
1958年、Alfred Hitchcockの語りとJeff Alexanderの音楽が、不穏な題材をレコードの娯楽に変えた。映画一本のサウンドトラックではなく、後のEminem作品とは別のアルバムだ。

02 / THE BEAT / THE INTRODUCTION
ビートから、レコードへ
Eminemは以前Dreが作ったビートを思い出して連絡し、自分でドラムなどを加えた。その後、Dreが1958年のレコードを勧め、リンクを送ったという。ビートの話と、アルバムを紹介した話は別の段階にある。
制作エピソードと出典 ↗
03 / THE CONCEPT / A DIFFERENT VOICE
一つの着想を、全編へ
1958年の作品を聴いたEminemは、アルバム全体を包むコンセプトへ発展させた。Hitchcockの声を幕間や曲へ配置する一方、使えなかった素材には権利処理の制約もあったと説明している。
制作エピソードと出典 ↗
04 / 2020.01.17 / WITHOUT WARNING
予告なく、幕が上がる
2020年1月17日、11作目のスタジオアルバムがサプライズリリースされた。Hitchcockの案内する世界に、技巧、怒り、親密さ、そして社会への視線が交差する。

OPENING NOTES

『Music To Be Murdered By』(MTBMB)は、Eminemが2020年1月17日に予告なく発表した、11作目のスタジオアルバム。全20曲、約64分。前作は2018年の『Kamikaze』だ。
題名は「殺されるための音楽」と直訳できる。穏やかな鑑賞用レコードのような名前に、物騒な言葉を差し込むブラックユーモア。その出発点は、映画監督Alfred Hitchcockと作曲家Jeff Alexanderによる1958年のレコードにある。
本作を聴く鍵は、すべてを一つの殺人物語として読むことではない。技巧、怒り、恋愛、依存、そして「Darkness」の社会的な視線を、Hitchcockの声が一つの上演として包んでいる。
同年12月の『Side B (Deluxe Edition)』は追加16トラックを含む拡張版。別の12作目ではなく、このアルバムのもう一つの幕だ。
六つの入口から、作品の奥へ。
『Revival』の受け止められ方への応答を、短く鋭い作品として投下。事前告知を置かない発表方法が、次作にも引き継がれる。
KamikazeのLPへ ↗Dre周辺の演奏家・プロデューサーがビートを制作。取材では2019年夏のセッションが語られる一方、一部ビートの着想はそれ以前に遡る。全曲を「2019年録音」とひとまとめにはできない。
第11作『Music To Be Murdered By』をサプライズ配信。「Darkness」の映像も同時期に公開し、作品の社会的な一面を提示した。
3月4日に日本盤CD。3月9日(米国日付)にはCole Bennett監督の「Godzilla」MVが公開される。配信、国内盤、映像という異なる入口がそろう。
『Side B (Deluxe Edition)』で16トラックを追加。「Gnat」などを含め、2020年の作品世界を36曲へ広げた。
WITHOUT A TRAILER
反撃を、短く鋭い作品に。
反論に加え、私的な声と社会への視線。
PRESS PLAY FIRST.
告知から期待を育てる代わりに、完成した作品を先に渡す。
『Kamikaze』とMTBMBに共通するのは、リリースの瞬間までアルバムを伏せたこと。Eminem公式もMTBMBをサプライズの新作として案内している。
『Revival』の批評への反応は、「Premonition」にも残っている。しかし、それだけを発売方式の理由と断定することはできない。公開日を隠した事実と、本人の心理を説明する推測は別だ。
予告編なしで映画が始まるように、タイトル、カバー、Hitchcockの声を一度に受け取らせる。その体験は本作の演出とよく合う。これは発表形式の効果についての読みであり、本人が述べた制作意図ではない。
THE ORIGINAL HOST


恐怖を娯楽に変える、二人の案内人。
1958年の言葉の仕掛けを継承
別カバーの斧と拳銃
幕間・Little Engine・終幕
語り手との距離を読む
作品からの解釈曲ごとの違いを一つの枠へ
作品からの解釈1958年の作品は、映画の一本分のサウンドトラックではない。Hitchcockが案内役を務め、Jeff Alexanderの編曲・音楽を通して、物騒な題材を家庭で聴くレコードの娯楽へ持ち込んだ作品だ。
大げさに恐怖を叫ぶのではなく、礼儀正しく、落ち着いた声で不吉なことを言う。恐ろしさと可笑しさが同居する仕掛けは、後年のEminemにも通じる。
確認できる事実:2020年のタイトルとアートが1958年作に着想を得たこと、Hitchcockの録音音声が使われていることは、Eminem側とHitchcock側の公式情報で確認できる。単なる「似ているジャケット」という偶然ではない。
Slim Shadyは、語り手の人格を演じることで、悪趣味な冗談を現実の本人からずらしてきた。Hitchcockの落ち着いた司会も、聴き手へ「これから上演が始まる」と知らせる。両者の親和性は、残酷さの量よりも、見せ方と語り手の距離にあると考えられる。
“Music to be … by”という鑑賞用音楽らしい型に、“Murdered”を入れる。優雅さと不穏さが同居する言葉の仕掛けを、Eminemはそのまま作品の入口にした。
ラップで相手を圧倒する誇示、架空の暴力、現実への批判は同じではない。本作はその境界を行き来する。タイトルが挑発的だからこそ、各曲の視点を見分ける必要がある。
Hitchcockの冷静な口調と、Eminemの過密な言葉は対照的だ。静かな司会が次の騒ぎを予告することで、アルバムの強弱が生まれる。
本人の語りが聞こえる最初の独立した幕間。時代の異なる声が作品に直接入り込む。
曲の冒頭にもHitchcockの声。アルバムの枠組みが、スキット以外の楽曲へ食い込む。
最後も案内人の声へ戻る。MCの競演を経て、1958年と2020年を結んだ幕が閉じる。
SLEEVE NOTES
「MTBMBのジャケット」は一枚ではない。
配信の標準画像、斧と拳銃を持つ別ジャケット、日本盤CDの商品画像を分けて見ると、混同を避けられる。UMJもデジタルとフィジカルでジャケットが異なると案内している。

THE ART OF BLACK HUMOR
A FAMILIARFOUR THREADS
恐怖とユーモア、技巧と帰属、親密さ、社会への視線。四つの大きな流れが、一曲ごとに異なる表情で現れる。
ホラーとブラックユーモア
誇張した復讐、Hitchcockの乾いた語り、駄洒落や下品な会話。恐怖と可笑しさが隣り合う。
技巧と、ヒップホップへの帰属
速さ、韻の密度、声の切り替え、客演との受け渡し。評価への反論と先人への敬意も、ラップの文化に身を置く誇りにつながっている。
愛情と依存、ほどけない関係
親密さへの渇きと、そこから抜け出せない感覚。Never Love Againでは、恋愛として聴いた言葉が、終盤に依存との関係として響き直す。
現実社会と、銃暴力
Darknessは孤立した語り手の視点から現実の銃暴力へ向かう。ほかの曲の架空の殺意と、社会に問いを投げるこの曲の目的は区別して聴きたい。
MELODY MEETS VELOCITY / TRACK 07


旋律がつくる入口。言葉が加速する、その先へ。
公式MVを見る ↗A STORY IN TWO PERSPECTIVES
最初に見えていた「ステージ前の孤独」が、別の場面へとつながる。仕掛けの精密さだけでなく、視点が変わった後に何が残るかが、この曲の中心だ。

部屋、酒、緊張、観客。Eminem自身が開演前に抱える不安のようにも聞こえる言葉が積み重なる。聴き手は、まず彼の内面を想像する。
語りと映像は、2017年10月1日のラスベガス銃乱射事件をもとにした場面へ接続する。同じ言葉が別の意味を帯び、最初の理解を聴き直すことになる。
前半の語りはEminemの実録ではなく、聴き手の連想を利用する演出だ。後半の事件描写も犯人の実際の心理を証明するものではない。孤独な「私」を追った聴き手は、最後にその視点から離れ、事件が残した現実に向き合う。
映像の終盤は、銃暴力を伝えるニュースや、投票・銃規制をめぐる呼びかけへ移る。これは加害者を称える終わり方ではなく、事件の反復を社会の問題として問い直す構成だ。
架空の暴力を使うアルバムが、実際の銃暴力を批判する。その緊張は解消されない。むしろ「Darkness」があることで、タイトルの挑発を無条件に楽しむ聴き方も揺さぶられる。
制作面ではRoyce da 5'9"とEminem、追加制作のLuis Restoが関わる。Royceが語ったDarknessのビート制作では、ビートがどのようにEminemへ渡ったのかをたどれる。
公式MVを見る ↗前半と後半で変わる言葉の意味が、最後には銃暴力をめぐる社会への問いにつながる。
CLOSE LISTENING
アルバムの多彩な表情が分かる4曲をピックアップする。
TRACK 01
批評への返答
Eminem
Producer: Eminem / Dr. Dre / Mark Batson
批評への返答が、まだ終わっていない。短い導入でKamikazeとの連続性を示し、後に続く別の主題との距離も作る。
TRACK 03
生き延びてきた声
Royce da 5'9" / White Gold
Producer: Royce da 5'9"
Royceがビートとラップの両方を担い、White Goldが感情の輪郭を作る。技巧が単なる競争から、生き延びてきた語りへつながる一曲。
TRACK 14
愛憎から依存へ
Eminem
Producer: Dr. Dre / Dem Jointz / Trevor Lawrence Jr. / Dawaun Parker
相手への愛憎として聞こえた語りが、依存との関係にも読めるようになる。恋愛曲という型を使った、意味の反転が聴きどころ。
TRACK 19
終盤のマイクリレー
KXNG Crooked / Royce da 5'9" / Joell Ortiz
Producer: Eminem
KXNG Crooked、Royce、Joell Ortizを迎える終盤のマイクリレー。攻撃性を誰かへの反論だけでなく、MC同士の腕比べへ向けて締める。

THE VOICE / EMINEM
BEHINDORIGINAL EDITION
オリジナル版・全20曲を、公式の順序で。
批評家と聴き手の相反する要求へ応答する導入。Kamikazeで始まった評価をめぐる攻防を、新しい作品の入口へ持ち込む。
Producer: Eminem / Dr. Dre / Mark Batson
追加制作: Dawaun Parker / Luis Resto
feat. Young M.A
feat. Royce da 5'9" / White Gold
Royceがラップとビートを担う。White Goldの歌を挟み、二人の技術と生存の物語が交差する。
Producer: Royce da 5'9"
共同制作: Eminem
追加制作: Luis Resto
ヒッチコックの声がアルバムへ再登場する短い幕間。語りそのものが作品の案内役になる。
Producer: Dr. Dre / Dawaun Parker / Andre “Briss” Brissett
▶ YouTubeで聴く ↗feat. Ed Sheeran
Ed Sheeranのフックを軸に、夜の遊びと会話をコミカルに描く。重い題材の間に置かれたパーティー曲。
Producer: d.a. got that dope
共同制作: Eminem
追加制作: FRED
feat. Juice WRLD
Juice WRLDのメロディーと、終盤へ向かって加速するEminemのラップが対照をなす。
Producer: d.a. got that dope
追加制作: Eminem
孤独な演者を思わせる描写が、ラスベガス銃乱射事件を題材にした物語へ重なっていく。
Producer: Royce da 5'9" / Eminem
追加制作: Luis Resto
feat. Skylar Grey
feat. Royce da 5'9" / Black Thought / Q-Tip / Denaun
継父への怒りを復讐のフィクションに変換する。個人的な語りと誇張された物語を区別して聴きたい。
Producer: The Alchemist / Eminem
追加制作: Luis Resto
恋愛の別れにも依存との決別にも読める二重性が鍵。言葉の意味を聴き返しによって反転させる。
Producer: Dr. Dre / Dem Jointz / Trevor Lawrence Jr. / Dawaun Parker
追加制作: Eminem
ヒッチコックの語りと異様なユーモアが近づく曲。緻密な制作と落ち着きのない言葉の運動を楽しめる。
Producer: Dr. Dre / Erik “Blu2th” Griggs / Trevor Lawrence Jr. / Dawaun Parker
▶ YouTubeで聴く ↗feat. Anderson .Paak
Anderson .Paakの歌とDreチームの弾むグルーヴが軸。威圧感だけでなく、リズムの余裕が聴きどころ。
Producer: Dr. Dre / Dawaun Parker / Erik “Blu2th” Griggs / Trevor Lawrence Jr. / Dem Jointz
▶ YouTubeで聴く ↗feat. Don Toliver
Don Toliverのメロディーを迎え、過去の言動やキャリアを振り返る。批評への反発だけでは終わらない曲。
Producer: d.a. got that dope
追加制作: Eminem
feat. KXNG Crooked / Royce da 5'9" / Joell Ortiz
ヒッチコックの声が最後の挨拶を担う。冒頭から続くブラックユーモアの枠を閉じる。
Producer: Dr. Dre / Dawaun Parker / Andre “Briss” Brissett
▶ YouTubeで聴く ↗LYRIC NOTES / ORIGINAL 20 TRACKS
名前が出てきても、すべてがディスとは限らない。誰を呼び、どんな役割を与えているのか。本編20曲から、対立、敬意、比喩、振り返りを読み分ける。

終わったはずのMGKとの対立を、誇示と比喩で振り返る。
ラッパーMGKとの対立を再び持ち出す。Unaccommodatingでは争いは終わったと言いながら優位を誇示し、Yah Yahでは別の比喩で挑発する。登場しただけで新たな対立の開始とは扱わない。

ラップの力量と、ヒップホップへの所属をめぐる批判へ返答する。
Brand Nubianのメンバー。ラップの力量と、ヒップホップへの所属をめぐる彼の批判に応答する。同じ一節に出るG RapやRakimは、攻撃の対象ではなく敬意を向ける先人だ。
写真はQuietRoomのCC BY 3.0動画に由来する静止画です。表示サイズに合わせて縮小しており、顔の生成・加工はしていません。


技巧の先人たちへ向けた敬意。ディスの対象とは役割が異なる。
ニューヨークの技巧派MCたち。Yah Yahでは影響源の系譜に並べ、I Willでは文化の「家」の主にふさわしい先人として持ち出す。Lord Jamarへの批判とは役割が逆になる。

「LL」という呼称で、若い頃からの影響源の連なりに置かれる。
1980年代から活躍するMC。ここではLLという呼称で、若い頃から聴いてきたラッパーの連なりに置かれる。客演者として登場しているという意味ではない。

文化の先達として登場。「家」の比喩にもつながるグループ。
1980年代を代表するヒップホップ・グループ。Yah Yahの系譜と、I Willの「家」の比喩の両方に登場する。後者ではJamarの排他的な主張へ対抗する基準となる。
写真は1984年のRunとDMC。Jam Master Jayを含む全員の集合写真ではありません。


西海岸の系譜と、Dreという導き手へ向ける敬意。
西海岸のグループN.W.A、その中心人物Eazy-EとDr. Dre。連ねられた名前は文化的なルーツを示し、Dreは進路を示した存在としても描かれる。単なる有名人の列挙ではない。
N.W.Aは文字で示し、写真は個人としてのEazy-EとDr. Dreを並べています。グループ全員の集合写真を表すものではありません。
怪獣のイメージで、暴走する語り手と過密なラップを誇張する。
日本の怪獣ゴジラ。曲名とフックが呼び出す巨大な存在は、暴走する語り手と過密なラップを誇張するイメージとして機能する。実在人物へのディスとは種類が異なる。


過去に二人へ向けた怒りを振り返る。新たなディスとは区別する。
ともにOdd Futureを背景に持つラッパー。自分の怒りを二人に向けたことを振り返り、反応すべきではなかったと語る文脈だ。二人への新たなディスとして一括りにしない。
曲中の名指し・呼称と、編集上の文脈整理を分けている。Godzillaは人物名ではなく、曲名にもなる架空の固有名として掲載。名前や比喩の使用だけで、現実の親交・関与・本人の心理が証明されるわけではない。
No Regretsの「kill shot」や「nicked」をMGKやNick Cannonへの間接言及と読む記事もあるが、その箇所で実名が出るわけではない。本欄では直接の名指しとして数えていない。
曲中の登場箇所は上の曲名から公式音源へ。照合資料:XXLのネームドロップ一覧 ↗ / eminem.newsの対立関連記事 ↗。後者の「disses」という分類もそのまま採用せず、No Regretsの回顧を分けて整理した。
THE PEOPLE BEHIND THE RECORD
01 / MAIN ARTIST & EXECUTIVE PRODUCERS
メインアーティスト
制作統括(Slim Shady)
Executive Producer
制作統括/楽曲制作
Executive Producer & Producer

DRE & THE PRODUCTION NETWORK
Dr. DreはEminem(Slim Shady)とともに制作を統括し、「Premonition」「Little Engine」「Lock It Up」などの制作にも参加。Dawaun Parker、Trevor Lawrence Jr.、Dem Jointz、Erik Griggsらとの協働が音の厚みを支える。
Royce da 5'9"らは客演と制作を横断する。担当曲・追加制作・演奏の区別と、取材に基づく制作背景は、下の全文クレジットへ。
Executive ProducersはDr. DreとSlim Shady(Eminem)。Dreは統括名義だけでなく、「Premonition」「Little Engine」「Lock It Up」などで実際の制作にも参加している。
制作陣への取材では、Dawaun Parker、Trevor Lawrence Jr.、Dem Jointz、Erik Griggsらが演奏を重ね、ビートを組み立てた様子が語られる。Eminemの録音と同じ部屋・同じ時間で全工程が進んだとは限らない。
この協働は『Relapse』期の制作にも連なる関係だ。ただし「DreがRelapse以来初めて戻った」という意味ではない。MTBMBでは、その周囲の音楽家を含む制作網が、後半の音の厚みを支えている。
Royce da 5'9"は客演と制作を横断。d.a. got that dopeは「Godzilla」や「Those Kinda Nights」、Skylar Greyは「Leaving Heaven」、Mr. Porterは「Yah Yah」、The Alchemistは「Stepdad」に関わる。
一枚を一人のプロデューサーで統一するのではなく、曲ごとに違う質感を配置する。Hitchcockの声は、その多様な音をつなぐ数少ない共通の仕掛けでもある。
RECEPTION & REACH
商業的な強さと、批評の一致は同じではない。数字が示す到達点と、聴き手に残る違和感を分けて読む。
全米では、当時10作連続の首位デビューを達成した。「10枚のスタジオアルバムが連続して1位」という意味ではなく、集計にはベスト盤も含まれる。初週279,000はストリーミング等を換算した単位で、CDの販売枚数ではない。
英国でもアルバムが1位となり、「Godzilla」と同週にアルバム/シングルの首位を獲得。初週は約36,000チャートセールス。オーストラリアでもARIAアルバム・チャートの1位に入った。
これは複数のレビューを横断した整理であり、すべての媒体が同じ評価をしたわけではない。Pitchforkはラップ史への目配りを拾いながら自己弁護の限界を論じ、NMEは社会的な視線と挑発性の両面を扱った。Metacriticの64点も「全員の合意」ではなく、異なる批評を集計した値だ。
THE SECOND ACT — 18 DECEMBER 2020

DECEMBER 2020 / THE SECOND ACT
THE STORY2020年12月18日、もう一度幕が開く。
『Music To Be Murdered By – Side B (Deluxe Edition)』は、1月のオリジナル20曲に16トラックを追加した全36曲の拡張版。イントロやスキットも追加曲数に含まれる。独立した12作目のスタジオアルバムではない。
Deluxe Editionでは追加16曲が先に配置され、その後にオリジナル20曲が続く。

2020 / JAPAN

オリジナルの世界配信日は2020年1月17日。日本盤CDは約1か月半後の発売で、タワーレコードでも国内盤として取り扱われた。
日本盤は、配信で見慣れた帽子姿とは異なるジャケットを採用。上記の品番で確認したい。Side Bの追加16曲を含む全36曲版とは仕様が異なるため、購入時はオリジナル/Deluxe、国内盤/輸入盤、CD/レコードを見分けたい。
Universal Music Japanの製品情報 ↗いずれも最高順位。集計方法の異なるチャートであり、販売枚数を示す数字ではない。

2020 / END CREDITS
EMINEMAFTER THE FINAL FRAME
語り手が作る、作品の枠
速さと余白、声の技術
Darknessが社会へ向く
Side Bまで続く2020年
『Kamikaze』で外へ向いた攻撃性は、この作品で消えたわけではない。だが、反論だけでは収まりきらない曲が、Hitchcockの演出の中に入り込んだ。
Eminemの私的な声、Slim Shadyの誇張、技術そのものの快感、ブラックユーモア、銃暴力への問題提起。これらが矛盾なく統合されたアルバムと評価するのは難しい。その不揃いさが、弱点にも、何度も聴き直す理由にもなる。
1958年のレコードから借りたのは、題名だけではない。語り手が聴き手を招き入れ、ときに油断させ、意味を反転させる方法だった、と読むことができる。「Godzilla」の技術と「Darkness」の物語が同居することに、MTBMBの作品史上の位置がある。
Side Bまで聴くと、その枠は2020年の現実や過去の作風へさらに広がる。前作への応答から、複数のEminemを一つの舞台に乗せる作品へ。それが、このアルバムを『Kamikaze』の単なる続編にしない理由だ。
LISTEN & OWN
まず1月版の20曲を通して聴き、その後にSide Bへ。購入時は収録曲数と版を確認してください。
広告:Amazon・楽天市場のリンクにはアフィリエイトを含みます。購入により当サイトが紹介料を受け取る場合があります。リンク先の価格・在庫・商品仕様は各販売店で確認してください。
QUESTIONS, ANSWERED
Eminemの11作目のスタジオアルバムです。前作は2018年のKamikazeです。
オリジナルの世界配信日は2020年1月17日です。日本盤CDは2020年3月4日、Side B (Deluxe Edition)は2020年12月18日に発売されました。
イントロや幕間を含め全20曲、収録時間は約64分です。Side Bの追加16曲はこの20曲に含めません。
直訳すれば「殺されるための音楽」。鑑賞用音楽らしい言い方に物騒な言葉を組み合わせたブラックユーモアで、1958年のHitchcockのレコードから受け継がれています。
元になったのは、HitchcockとJeff Alexanderによる1958年のAlfred Hitchcock Presents Music to Be Murdered By。タイトルとアートの着想源であり、本人の録音音声もアルバムで使われています。
制作の入口には、Dreが以前作ったビートをEminemが思い出したこともありました。Eminem自身がドラムなどを加え、Dreに勧められた1958年のレコードを聴いたことで、アルバム全体の着想へつながったとインタビューで説明しています。制作エピソードと出典を読む ↗
Juice WRLDが客演しています。主制作はd.a. got that dope、追加制作はEminemです。
ステージ前の演者の孤独を思わせる描写と、2017年のラスベガス銃乱射事件をもとにした語りを重ねる曲です。公式MVは銃暴力を社会の問題として問い直すメッセージへつながります。
11作目MTBMBのDeluxe Editionです。新たな16トラックとオリジナル20曲で全36曲。独立した12作目ではありません。配信版では追加16曲が先に再生されます。
UICS-1360は2020年3月4日発売の日本盤CDで、オリジナル20曲を収録します。12月のSide B追加16曲は含みません。
2024年7月12日発売の12作目The Death of Slim Shady (Coup De Grâce)です。2022年のCurtain Call 2はベスト盤なので、次のスタジオ作とは区別します。
THE RECORD OF SOURCES
作品の背景をさらにたどりたい方へ。公式の作品情報、制作陣への取材、発売当時のレビューを紹介する。
資料写真の撮影時期はそれぞれ異なります。人物の識別と歌詞の文脈を補うための掲載で、同じ撮影現場や作品制作への参加を示すものではありません。掲載版は必要な範囲のトリミング・縮小・WebP変換、CSSによるモノクロ表示を行っています。
Juice WRLDの歌がつくる、覚えやすい入口。そこからEminemの言葉は、制御不能なほど加速していく。
Juice WRLDは2019年12月に亡くなり、「Godzilla」はその死後の初期に世に出た客演曲の一つとなった。新世代のメロディー感覚と、Eminemの圧倒的な発語が同居することに、この共演の意味がある。
Cole Bennett監督のMVにはMike Tyson、Dr. Dreも登場し、最後にはJuice WRLDへの追悼が置かれる。怪物のような誇張と故人への敬意が、別々の温度で残る映像だ。
Godzillaの歌詞和訳とワードプレイ解説では、速度だけでは拾いきれない多重の意味をたどれる。制作の入口はGodzillaのプロデューサーが語る制作背景へ。
公式MVを見る ↗GUINNESS / DEFINITION MATTERS
「No.1シングルにおける最速ラップ」
Guinnessが掲載する条件は、曲の2:57〜3:27の30秒間に225語。この部門の記録を、あらゆる曲・あらゆる測定方法での「世界最速」と言い換えない。
225 words / 30 sec
330 syllables / 31 sec
後者は約10.65音節/秒。語と音節の単位も、区間も異なるため、7.5と10.65を同じ記録の別表記として扱うことはできない。
数える単位と測定区間が異なるため、同じ記録として比較できません。
Godzilla Challengeは高速パートを再現する参加型の企画として展開された。だが、この曲を速度だけで終わらせるのは惜しい。Juice WRLDのフックがあるからこそ、終盤の密度がいっそう際立つ。
Photo: Andy Jones · Wikimedia Commons · CC BY-SA 2.0掲載版を縮小・WebP変換。写真全体を表示し、演出内ではCSSでモノクロ表示。
Eminemの炎のビジュアル:「Godzilla」公式MVより。二人の写真は別の時期・別の場面で撮影された資料で、同じステージの共演写真ではありません。