EMINEMSTUDIO ALBUM 10SURPRISE DROP

Kamikazeエミネム『カミカゼ』

警告はなかった。
反撃だけが届いた。

批評を燃料に変え、告知なしで墜落してきた45分49秒。『Revival』の反応そのものを次作へ変えた、2018年のブラックボックス。

/ SHADY・AFTERMATH・INTERSCOPE

Eminem『Kamikaze』をモチーフにした飛行機の横長ビジュアル
NO WARNINGFLIGHT 2018IMPACT: 08.31

『Kamikaze』とは

『Revival』への激しい批評から8か月余り。Eminemは予告も先行シングルもなく、10作目のスタジオアルバムを投下した。

全13曲の中心にあるのは批評への反撃と、変化したヒップホップとの世代的衝突である。しかし「全方位ディス」だけでは終わらない。驚異的な技術の再提示、不安と自己矛盾、D12への区切り、恋愛曲、映画『ヴェノム』の主題歌までを含む。

エグゼクティブ・プロデューサーはEminemとDr. Dre。Boi-1da、Tay Keith、Ronny J、Mike WiLL Made-Itら当時の現行サウンドへ接近し、新しいビート上で支配力を証明しようとした。

モノクロで撮影されたEminemのポートレート
EMINEM / PRODUCTION WINDOW 2018
RELEASE
2018.08.31
FORMAT
STUDIO ALBUM 10
TRACKS
13
RUNTIME
45:49
PREVIOUS
REVIVAL
NEXT
MUSIC TO BE MURDERED BY

REVIVALKamikaze

批評、初動反撃、サプライズ投下、発売後の余震。PCでは下へスクロールすると、全画面の記録が4段階で切り替わる。

FILE 01 / 04

01 / ORIGIN

REVIVAL RELEASED

2017年12月、大きな期待の一方で、ポップ客演、ロックサンプル、政治曲、内省曲が混在した構成へ批判が集中した。Eminemは後に、曲を聴く前からトラックリストで判断されたという不満を語る。

  • 期待と反発
  • 方向性への批評
  • 評価をめぐる防御

02 / IGNITION

CHLORASEPTIC REMIX

2018年1月8日、2 ChainzとPhresherを迎えたリミックスで反撃が始まる。これは『Kamikaze』収録曲ではないが、批評を燃料へ変える姿勢を先に示した前段である。

  • 発売後の応答
  • 反撃の予告
  • 本編外の作品
黒い帽子とジャケットを着たEminemのポートレート

03 / IMPACT

Kamikaze

2018年8月31日、事前告知なしで全13曲を世界配信。前作と正反対に、情報より先に音源を届けた。驚きそのものが作品の攻撃性と一体化した。

  • NO WARNING
  • 13 TRACKS
  • SURPRISE DROP

04 / AFTERSHOCK

INTERVIEW / RAP DEVIL / KILLSHOT

Swayとの4部インタビューで制作動機と後悔を説明。「Not Alike」へのMGKの応答「Rap Devil」、さらにEminemの「Killshot」へ続く。ただし「Killshot」は発売後の別作品である。

  • 4 PART INTERVIEW
  • 発売後のビーフ
  • KILLSHOT ≠ TRACK 14
吊り下げ式マイクの前でパフォーマンスするEminem
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なぜサプライズリリースだったのか

「作品を聴く前に判断された」という不満に対し、情報を消して音源だけを先に置く。発表方法そのものが『Revival』への回答になった。

01

批評から始まった

批評を冷静に受け止めた成熟の記録ではなく、反射的に撃ち返す衝動が速度を生んだ。

02

判断材料を与えない

告知なしの発表は、先入観を作る時間を奪い、音源そのものを先に聴かせる方法だったと読める。

03

短期間で集中

長大で方向の多かった前作から45分49秒へ圧縮。冒頭の反撃曲が明確な核を作る。

04

現在のビートへ接近

若手世代を批判する一方、その世代を支えるBoi-1da、Tay Keith、Ronny Jらの音像へ乗り込む。

アルバムアート徹底解説

飛行機の前面と背面をつなぎ、墜落の瞬間を一枚の物語にする。Mike Saputoのアートデザインは、Beastie Boys『Licensed to Ill』を明確に参照する。

Eminem『Kamikaze』の正式なアルバムジャケット
OFFICIAL ALBUM COVER© Shady / Aftermath / Interscope
FRONT COVER / 2018

公式ジャケットを基準に読み解く

正方形の表面ジャケットには機体後部と噴射炎が描かれる。機首側へ続く背面アートと合わせることで、一機の飛行機が衝突へ向かう構図になる。

1986

Licensed to Ill

元になったBeastie Boysのデビュー作。前後カバーをまたぐ衝突構図まで受け継ぐ。

LT.

MATHERS III

機体のパイロット名は「LT. MATHERS III」。Marshall Mathers自身が操縦し、自身も危険へ巻き込む。

FU2

警告ではなく挑発

機体の「FU2」は攻撃的な短縮表現。匿名機ではなくEminemの反撃機であることを示す。

TIKCU5

左右反転の仕掛け

左右反転すると「SUCKIT」。『Licensed to Ill』の「3MTA3 → EATME」と対応する。

作品を構成する5つの衝突

正しさを証明する判決文ではない。怒り、技術、矛盾、後悔までを記録したフライトレコーダーである。

  1. 01

    批評家への反撃

    作品への批評と、自分の存在価値への否定を切り離せない防御性が推進力になる。

    PRESS / RESPONSE
  2. 02

    旧世代と新世代

    新しいラップ傾向を攻撃しながら、同時代のトラップ系ビートへ適応する。

    LEGACY / NOW
  3. 03

    技術力と音楽性

    速度、内部韻、声の圧力は圧倒的だが、技術だけではテーマの狭さを解消できない。

    SKILL / SONG
  4. 04

    怒りと自己批判

    ファンを失う恐怖、失敗、D12との関係へ自分の責任も向ける。

    ANGER / DOUBT
  5. 05

    破壊とその後の後悔

    攻撃が別の人々も傷つけたと認める。インタビューが余震を記録する。

    IMPACT / REGRET

誰へ向けた反撃だったのか

評論・メディア現代ラップ過去の関係自己批判
01Revivalを批判した評論家・メディアOPEN

Charlamagne tha God

『The Ringer』で名指し。前作やBETサイファーへの評価をめぐる応酬である。

Joe Budden

元Slaughterhouse関係者でありながら『Revival』を強く批判。『Fall』で過去の近さごと攻撃対象になる。

DJ Akademiks / 批評環境

『Fall』で言及。固有名だけでなく、聴く前に結論を出したと感じた環境全体が対象である。

02現代のラップ傾向・若手ラッパーOPEN

Lil Yachty

人気の理由は理解できても自分の好みではないという距離の置き方で言及する。

Lil Pump / Lil Xan

名前やスタイルの類似をまとめて批判。若手を一括りにする見方自体も本作への批判点になった。

現行フロウ / Drakeをめぐる示唆

『Not Alike』で流行の型を風刺。ゴーストライティング示唆を直接的な宣戦布告とは断定しない。

03過去の共演者・関係者OPEN

Tyler, The Creator / Earl Sweatshirt

過去の批評へ『Fall』で反応。Tylerへの表現は強く批判され、Eminem自身も行き過ぎを認めた。

Lord Jamar

長く続いた、正統性とヒップホップ内での立場をめぐる対立を持ち込む。

D12

敵ではない。『Stepping Stone』で維持できなかった責任と終止符を自分へ向ける。

04具体的な対立:MGKOPEN
ALBUM

Not Alike

MGKへの明確な呼びかけが対立を表面化。

POST-RELEASE

Rap Devil

MGKが9月3日に応答。ここからは発売後。

POST-RELEASE

Killshot

9月14日の別作品。アルバムの14曲目ではない。

05Eminem自身への批判と自己矛盾OPEN

新世代を批判し、その音を使う

Tay KeithやRonny Jらのビートへ適応する矛盾は、単なる懐古ではない証拠でもある。

批評を嫌い、批評へ支配される

敵を否定しながら、その敵に作品の焦点を与えている。

攻撃と後悔

言葉が他の人々も傷つけたとSwayとのインタビューで認識した。

SwayとのKamikaze Interviewで話すEminem
The Kamikaze Interview / 4 PARTS

The Kamikaze Interview

Swayとの公式インタビューは4パート構成。作品の動機だけでなく、攻撃のあとに残った責任まで言葉にした。

  • Revivalのトラックリストだけで判断されたという不満
  • Kamikazeを作った動機と短い制作サイクル
  • MGKとの経緯と応答を決めるまで
  • 『Fall』の表現は行き過ぎで、他の人々も傷つけたという認識
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参加アーティスト・制作陣

Joyner Lucas

「Lucky You」で技術競争を成立させる。

Royce da 5'9″

「Not Alike」でデトロイトの長い連携を更新。

Jessie Reyez

「Nice Guy」「Good Guy」で恋愛曲の荒い対話を担う。

Justin Vernon / Paul Rosenberg

Vernonの「Fall」ボーカルはクレジットされるが、本人はメッセージへ距離を表明。Rosenbergは2つのスキットで懸念を伝える。

EXECUTIVE

EMINEM
+ DR. DRE

全体の方向と最終判断

TECHNICAL CORE

Eminem / Luis Resto

CURRENT PRESSURE

Boi-1da / Tay Keith / Ronny J

HYBRID CONTROL

Mike WiLL Made-It / Illa da Producer / S1

PRECISION LAYER

Jahaan Sweet / Tim Suby

評価と商業成績

方向の明確さと技術は評価を戻した。一方、防御性、若手への反発、表現の問題は限界として残った。

METACRITIC62/ 100・16 REVIEWS
BILLBOARD 200#1434,000 UNITS
TRADITIONAL SALES252KUS / WEEK 1
UK ALBUMS#155,000 CHART SALES
REVIVAL / 267,000
Kamikaze / 434,000

初週規模は拡大したが、数字だけで作品の質や前作の価値は決まらない。サプライズ性、ストリーミング、反撃の話題性が同時に作用した。

肯定された点

  • 短く集中した構成
  • ラップ技術と声の圧力
  • 現代的なビートへの適応
  • Revivalより明確な方向性

批判された点

  • 防御的で被害者意識が強い
  • 若手世代を一括りにする反発
  • 差別的表現を含む言葉の問題
  • 技術は高くても内容が狭い
  • 恋愛曲が勢いを止めるという評価

US:Billboard 200初登場1位。スタジオ作8作連続、サウンドトラック『8 Mile』を含め通算9作目の首位。「Lucky You」6位、「The Ringer」8位でHot 100トップ10へ同時初登場。

UK:55,000チャートセールスで1位。9作連続でUKアルバム首位となった。

RIAA:プラチナ到達として広く報告されるが、制作時にRIAA公式検索からアルバム行の認定日を安定して再取得できなかったため、正確な日付を断定していない。

日本国内盤

世界デジタル配信から約2か月後、2018年11月2日に国内盤CDが発売された。

RELEASE
2018.11.02
CATALOG
UICS-1347
FORMAT
CD / 1 DISC
LYRICS
全曲歌詞・対訳付き
TRACKS
13 / 「Venom」収録

墜落は、失敗を消さなかった。
失敗への反応を作品に変えた。

『Kamikaze』は批評を受け止めて成熟した作品というより、批評へ反射的に撃ち返した記録である。その狭さと危うさは弱点だ。しかし、Eminemがキャリア後半でも技術、速度、声の圧力、話題性を一夜で奪い返せることを証明した。

『Revival』をなかったことにはしない。前作への反応そのものを次のアルバムへ変換した点に意味がある。ブラックボックスに残ったのは勝利だけではなく、怒り、矛盾、後悔、再び飛び立てる技術だった。

購入・ストリーミング

商品情報や価格はリンク先でご確認ください。当サイトは適格販売により収入を得る場合があります。

よくある質問

『Kamikaze』はいつ発売された?

世界デジタル配信日は2018年8月31日である。日本盤CDは2018年11月2日に発売された。

『Kamikaze』は何作目のアルバム?

Eminemの10作目のスタジオアルバムである。

『Kamikaze』の収録曲は何曲?

スキット2曲を含む全13曲である。

なぜサプライズリリースだった?

Eminemは『Revival』が曲を聴く前からトラックリストだけで判断されたことへの不満を語っている。事前情報を与えない発表は、作品そのものを先に聴かせる方法でもあった。

『Kamikaze』というタイトルの意味は?

自分のキャリアや評判まで危険にさらして反撃する、自己破壊を含む比喩である。歴史上の特攻を称賛する意味ではない。

アルバムアートの元ネタは?

Beastie Boysが1986年に発表した『Licensed to Ill』へのオマージュである。

『Revival』とはどのような関係がある?

『Revival』への批評と、その受け止められ方へのEminemの反応が制作の直接的な燃料になった。

誰が参加している?

Joyner Lucas、Royce da 5'9″、Jessie Reyezが客演し、『Fall』ではJustin Vernonのボーカルが使われている。Paul Rosenbergもスキットに登場する。

なぜ多くの人物を批判した?

『Revival』を批判した評論家や関係者、現代ラップの傾向、過去の対立へ反論する構造だからである。ただし全曲がディスだけで構成されているわけではない。

MGKとのビーフはどの曲から始まった?

『Kamikaze』収録の『Not Alike』で対立が表面化し、発売後にMGKの『Rap Devil』、Eminemの『Killshot』へ続いた。

『Killshot』は『Kamikaze』に収録されている?

いいえ。『Killshot』はアルバム発売後の2018年9月14日に公開された別作品である。

日本盤はいつ発売された?

2018年11月2日である。品番はUICS-1347。

日本盤には全曲の対訳がある?

はい。Universal Music JapanはUICS-1347を全曲歌詞・対訳付きと案内している。

次のスタジオアルバムは?

2020年の『Music to Be Murdered By』である。

参考資料

発売日、曲順、国内盤情報は公式資料を優先。評価とチャートは集計元・業界媒体、背景補足は二次資料と照合した。