PATIENT: MARSHALL MATHERS STATUS: RELAPSE DETECTED

CASE FILE / 05.19.2009

EMINEMRELAPSE

エミネム『リラプス』アルバム徹底解説

再発したのは依存症か、
それともSlim Shadyか。

Eminem『Relapse』アルバムジャケット
SCROLL

QUICK DIAGNOSIS / GUIDE 00

エミネム『Relapse(リラプス)』とは

『Relapse』は、エミネムが約5年の空白を経て2009年に発表した復帰作。Dr. Dre主導の暗く統一されたサウンドに、依存症からの再起とSlim Shadyの再登場を重ねたコンセプト・アルバムである。

通常盤
全20曲
主要制作
Dr. Dre
日本
オリコン週間1位
Refill
追加ディスク9曲
PARTICLE SCAN / PATIENT 313 REC 05:19:09

RELAPSE DETECTED

SLIM SHADY HAS RETURNED

沈黙のあと、心拍が戻る。
だが、目を覚ましたのはMarshallだけではなかった。

PATIENT HISTORY / FILE 01

Relapse(リラプス)の背景と意味

約5年の空白を破った復帰作は、回復の報告ではなく、最も危険な人格が再び動き出す物語だった。

『Relapse』は、Eminemが『Encore』から約5年ぶりに発表したスタジオ・アルバムである。その間、彼のキャリアは単なる活動休止では説明できないほど深い停止状態にあった。盟友Proofの死は、友人を失った悲しみだけでなく、D12とデトロイト時代から続いてきた足場そのものを奪った。喪失を抱えたEminemは創作から遠ざかり、処方薬への依存をさらに深めていく。

依存はやがて過剰摂取へつながり、音楽を作る以前に生き延びることが問題となった。リハビリと断薬を経ても、すぐに以前のようなラップが戻ったわけではない。言葉を思うように組み立てられず、自分の声やリズムとの距離を測り直す必要があった。『Relapse』は、完全に立ち直った人物の勝利宣言ではなく、創作能力を一つずつ回収していく過程を刻んだ作品として聴くべきだろう。依存から『Recovery』までの詳しい経緯は、エミネムの薬物依存症と復活への道でも時系列に沿って紹介している。

RELAPSE

診断メモ:タイトルは薬物依存の「再発」を示すと同時に、封印されていたSlim Shady人格の再出現を意味する。回復へ向かう現実と、作品内で再び暴走する虚構が同じ言葉に重ねられている。

再始動を支えたのがDr. Dreだった。彼のビートは、不気味なシンセ、重いドラム、映画音楽のような場面転換を備え、Eminemが物語を演じるための舞台になった。アルバムの大部分をDreのプロダクションが統率したことで、曲ごとに異なる事件を描きながらも、全体には一つのホラー映画を見ているような統一感が生まれている。

その舞台で前面に出るのは、Marshall Mathers本人よりもSlim Shadyである。連続殺人犯、誘拐、悪夢、薬物による幻覚を思わせる物語は、現実の告白をそのまま語る代わりに、恐怖とブラックユーモアへ変換される。残酷さは聴き手を選ぶが、単なる衝撃狙いではない。自分を壊した衝動を、誇張された怪物として外側へ取り出すための演劇でもある。

もう一つの特徴が、アクセントを多用した特殊なフロウだ。Eminemは声色と発音を歪め、音節を韻へ合わせることで、通常なら結びつかない言葉まで連鎖させる。この方法は技術的な密度を高める一方、内容を聴き取りにくくし、発売当時の大きな批判点にもなった。『Relapse』の評価が分かれる理由は、ホラー描写だけでなく、この意図的に人工的な「声」にもある。

しかし本作は、奇怪な仮面だけで終わらない。「Déjà Vu」では依存が日常を侵食する過程を冷静にたどり、「Beautiful」では孤立と自己否定の底から、他者の価値を認めようとする。こうした曲があるからこそ、ホラーの奥にいる本人の姿が見える。『Relapse』は復帰を実現した重要作でありながら、Eminem自身が次の作品で方向を変える必要を感じた転換点でもある。その修正と再出発が、翌年の『Recovery』へ続いていく。

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PATIENT DATA / FILE 02

Relapseの基本情報

アーティスト
Eminem
アルバム名
Relapse
米国発売日
2009年5月19日
レーベル
Aftermath Entertainment / Shady Records / Interscope Records
通常盤収録曲数
20曲
主なプロデューサー
Dr. Dre
Billboard 200
1位
オリコン週間アルバム
1位
Grammy
Best Rap Album受賞

CLINICAL FINDINGS / FILE 03

アルバムのポイント

  • Dr. Dreが中心となった統一感のあるプロダクション
  • 連続殺人犯やホラー映画を思わせる物語
  • 多数のアクセントを使った特殊なラップ
  • 依存症とリハビリをめぐる私的な告白
  • Slim Shady人格そのものの「再発」
  • ブラックユーモアと不穏さの共存
  • 発売時の批評を越えた後年の再評価

JAPAN MARKET / JP-01

日本で達成した、史上初の首位。

復帰作への注目は、日本でもチャートを動かした。

日本盤が発売された2009年5月20日の週、『Relapse』は4.6万枚を売り上げ、6月1日付オリコン週間アルバムランキングで初登場総合1位を獲得した。『The Eminem Show』『Encore』『Curtain Call: The Hits』の最高3位を上回り、エミネムにとって日本で初めてのアルバム首位となった。

さらに、この1位は洋楽HIP HOPのソロ・アーティストとして史上初の記録だった。同時期には米Billboard 200と全英アルバムチャートでも初登場1位を獲得。『Relapse』は活動再開を知らせるだけでなく、日本を含む主要市場で商業的な復帰を証明した作品でもある。

出典: ORICON NEWS UNIVERSAL MUSIC JAPAN

ORICON WEEKLY ALBUMS

#1
FIRST WEEK
4.6万枚
PREVIOUS PEAK
3位
HISTORIC FIRST
洋楽HIP HOPソロ・アーティスト初の総合1位

REHABILITATION LOG / FILE 04

レコーディングストーリー

休止期間のEminemは、書こうとしても以前のように韻やリズムを組み立てられず、創作の手応えを失っていた。Proofの死、薬物依存、過剰摂取を経た断薬後は、ラッパーとしての感覚を取り戻すこと自体がリハビリの一部になった。

レコーディングスタジオのミキシングコンソール前でインタビューを受けるEminem

『Encore』後の空白期には、周辺人物から「King Mathers」と呼ばれた未発表プロジェクトの存在も伝えられた。ただし、Eminem本人やレーベルが正式タイトルとして確定した作品ではなく、当時の報道でも発売時期や名称は未確定とされていた。依存が深かった時期の録音をそのまま完成させるのではなく、断薬後の感覚で選び直し、新たに作り直した地点から『Relapse』は形になっていく。

転機となったのは、Dr. Dreのビートに反応する形で再び言葉が動き始めたことだった。不穏で映像的なトラックは、現実を直接説明するよりも、キャラクターと物語を通して恐怖を演じる方法をEminemに与えた。声色やアクセントの実験も、その過程で生まれた新しい組み立て方だった。

制作では大量の楽曲が録音され、当初は続編『Relapse 2』へ展開する構想も公表された。しかし、作業を続けるうちにEminemの音楽的関心は変化する。過去の録音をまとめるより、新たなプロデューサーも迎えて現在の自分を更新する方向へ進み、計画は最終的に『Recovery』へ置き換わった。

  • 空白期の未発表録音と、断薬後の新規制作を切り分け
  • 創作困難から、韻とフロウを一つずつ再構築
  • Dr. Dreの映像的なビートが物語の入口に
  • 大量録音と『Relapse 2』構想
  • 過去作の延長ではなく『Recovery』へ方向転換

SOBRIETY STATUS / FILE 05

断薬が『Relapse』を
どう変えたか

断薬は、アルバムの題材だけでなく、声、韻、物語の作り方を分ける境界になった。『Relapse』には、依存の中で残された声と、そこからラップを再習得した後の声が同居している。

Relapse期のEminemを異なる姿勢で捉えた2枚組のスタジオ写真

01 / BEFORE SOBRIETY

残された「Beautiful」

依存が深かった時期、Eminemは書く力と録音への意欲を失い、自分の声にも確信を持てなくなっていた。「Beautiful」は、その時期に録音された素材を土台にした本編中の例外的な曲である。断薬後の作品に残された断薬前の声だからこそ、孤立や自己否定が演技ではなく、当時の停滞を記録するように響く。

02 / RELEARNING RAP

ラップを一から取り戻す

薬物が抜けても、以前の技術がそのまま戻ったわけではない。発音、呼吸、音節の置き方を確かめながら、言葉をビートへ乗せる感覚を組み直す必要があった。断薬は完成ではなく再訓練の始まりであり、過剰なほど韻を重ねる方法や、声を変形させるアクセントも、その試行錯誤から生まれた。

03 / AFTER SOBRIETY

Dreの音像から物語へ

Dr. Dreの暗く輪郭のはっきりしたビートは、回復を直接説明する代わりに、殺人鬼、病院、悪夢という物語へ感情を移す枠組みになった。Slim Shadyを演じることで現実との距離を作りながら、Eminemは再び長い韻と場面描写を制御していく。『Relapse』のホラー性は、断薬後の創作を動かすための方法でもあった。

「Beautiful」の制作時期は、発売時のEminem本人へのインタビューを参照しています。

依存、過剰摂取、断薬までの詳しい経緯は、エミネムの薬物依存症と復活への道で紹介しています。

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TREATMENT HISTORY / FILE 06

リリースまでのタイムライン

  1. 『Encore』発売前作を発表。以後、スタジオ・アルバムには長い空白が生まれる。
  2. Proof死去盟友を失った悲しみが、活動と生活の両面に大きな影響を与える。
  3. 過剰摂取処方薬依存が深刻化し、命に関わる転機を迎える。
  4. 断薬とリハビリ依存から離れ、生活と創作の立て直しを始める。
  5. Dreと制作本格化Dr. Dreのビートを軸に、録音が本格的に動き出す。
  6. 『Relapse』米国発売約5年ぶりのスタジオ・アルバムとして復帰。
  7. 『Refill』米国発売追加ディスクを含む再発盤がリリースされる。
  8. Grammy受賞Best Rap Albumを受賞する。

ADDITIONAL PRESCRIPTION / FILE 08

Relapse: Refillとの違い

2009年末に追加された、もう一枚のカルテ。

『Relapse: Refill』の追加ディスクには9曲が収録されている。その内訳は「Forever」から「Drop the Bomb on 'Em」までの7曲に、エディションによって先行ボーナストラックとして発表されていた「My Darling」と「Careful What You Wish For」を加えたもの。通常盤の20曲とは別の追加ディスクであり、合計を本編の曲数として混同しないことが重要である。

7 NEW ADDITIONS + 2 PRIOR BONUS TRACKS = 9 TRACKS

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DISPENSARY / FILE 10

購入・ストリーミング

通常盤、Relapse: Refill、輸入盤など、目的のエディションを確認して選んでください。

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EVALUATION / FILE 11

発売当時の評価と現在の再評価

METASCORE 59 CRITIC REVIEWS
USER SCORE 8.2 USER REVIEWS

2009 / THEN

発売当時の評価

発売時には、アクセントの多用による聴き取りにくさと、残酷なホラー描写が大きな争点になった。技術的に密度が高くても、題材と声の演技が感情移入を遠ざけているという受け止め方があり、復帰作に率直な告白を期待した層との距離も生まれた。一方で、Dr. Dreを中心とするプロダクションの統一感や、緻密に設計された韻そのものは評価された。Eminem本人も後年、当時のアクセントを批判的に振り返っている。

NOW / REASSESSMENT

現在のファンによる再評価

後年の再評価では、作品の不快さを消すのではなく、その極端さを一貫したコンセプトとして捉える見方が強い。「Stay Wide Awake」に代表される多音節韻の技術、「Déjà Vu」と「Beautiful」に残された私的な告白、Dr. Dreの暗く映画的な音像が改めて注目されている。批評家のMetascore 59に対しUser Scoreが8.2であることも、発売当時の批評と現在のファン評価の距離を示す一つの指標であり、カルト的な支持を集める作品になっている。

TECHNICAL AFTERLIFE / CLOSE READING

なぜ『Relapse』は再評価されたのか

発売時に聴き手を遠ざけた極端な声と暗さは、時間がたつにつれて、他作品にはない統一された技法として聴き直されるようになった。

Relapse期のEminemを3つのポーズで構成したスタジオ写真
3 a.m.
事件の断片を前へ進めながら、内部韻と多音節韻を連続させる。アクセントは奇抜な装飾ではなく、異なる音節をつないで場面を加速させる役割を持つ。
Stay Wide Awake
文をまたいで長い韻の連鎖を維持し、意味とリズムを同時に崩さない。題材の不快さと技術的精度を切り離せないことが、本作の評価を分ける核心になっている。
Underground
アルバム終盤でアクセントを抑え、バトルMCとしての攻撃性と密集した言葉遊びを前面に戻す。ホラー映画の人物を畳みかける構成が、本編の出口として機能する。
Dr. Dre
低い調性、重いドラム、不穏な間をアルバム全体へ通し、別々の事件を一つの映画のように結ぶ。個々の奇抜さが、作品単位では統一感へ変わっている。

多くの聴き手が復帰作に期待したのは、率直な告白や過去の代表作に近い王道のカムバックだった。しかし実際に前面へ出たのは、アクセントとホラーコアを徹底したSlim Shadyである。この期待とのズレが発売時の反発を生み、同時に、後年「一度きりの異形作」として再発見される理由にもなった。

DIAGNOSIS / FILE 12

テーマとキャリア上の位置づけ

『Relapse』の中心にあるのは、依存症、再発、リハビリという現実の経験と、Slim Shadyの復活を重ねる二重構造である。ホラーコアとブラックユーモアは、現実から目を背ける飾りであると同時に、直接語れない恐怖を演じるための方法でもあった。

商業的にはBillboard 200で1位を獲得し、Eminemが再び第一線へ戻ったことを示した。しかし創作上は完成形ではない。『Encore』期の崩壊から、断薬後の創作再開を経て、『Recovery』の率直な再建へ向かう途中に位置する。批評とファン評価の乖離を含め、復帰の成功と次の修正を同時に記録した作品である。

Popsomp Hillsの患者ファイルとカプセルを机上に置いた資料
  • 依存症
  • 再発
  • リハビリ
  • Slim Shadyの復活
  • ホラーコア
  • ブラックユーモア
  • 断薬後の創作再開
  • 商業的復帰
  • 批評とファン評価の乖離

FREQUENT QUESTIONS / FILE 13

Relapseについてよくある質問

『Relapse』はいつ発売された?

米国では2009年5月19日、日本では同年5月20日に発売された。エミネムにとって『Encore』以来、約5年ぶりのスタジオ・アルバムにあたる。

通常盤は何曲収録されている?

スキットを含む全20曲。「Dr. West (Skit)」から「Underground」までが通常盤の正式な収録順となる。

『Relapse: Refill』との違いは?

『Relapse: Refill』は通常盤に追加ディスクを加えた再発盤。追加ディスクは新規追加7曲と、先行ボーナストラック2曲を合わせた全9曲で構成される。

なぜアクセントを多用している?

発音を変形して韻の組み合わせを広げ、ホラー映画の登場人物を演じ分ける方法として使われた。一方で聴き取りにくさを生み、発売当時の評価が分かれた大きな要因にもなった。

グラミー賞を受賞した?

第52回グラミー賞でBest Rap Albumを受賞した。「Crack a Bottle」もBest Rap Performance by a Duo or Groupを受賞している。

日本でも1位を獲得した?

2009年6月1日付オリコン週間アルバムランキングで初登場総合1位を獲得。エミネム作品として日本初の首位で、洋楽HIP HOPのソロ・アーティストとしても史上初の記録だった。

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