BEFORE THE FAME

成功より先に、仲間がいた。
1990年代のDetroit。Proofを中心に結びついたMCたちは、バトルや地下シーンで互いの技量を知っていた。D12を、売れたEminemが後から集めたバック・グループと考えると、出発点を見失う。

D12 — THE DEBUT ALBUM
世界へ出た一人の成功を、
Detroitの仲間たちの物語へ。
D12 / DEVIL’S NIGHT
D12を知るには、Eminemの成功から少し時間を巻き戻す必要がある。
これはスターが仲間を連れてきた話であり、仲間がスターを育てた話でもある。

成功より先に、仲間がいた。
1990年代のDetroit。Proofを中心に結びついたMCたちは、バトルや地下シーンで互いの技量を知っていた。D12を、売れたEminemが後から集めたバック・グループと考えると、出発点を見失う。
Proof
Bizarre
Kuniva
Swifty
Kon Artis
Eminem6人の声に、別名。
Dirty Dozenは「汚れた12人」。6人がそれぞれ別名や別人格を持つ発想で、人数と名前のずれを埋めた。Slim Shadyだけの仕組みではなく、クルー全体の遊びである。

このデビューには、不在の仲間がいる。
初期メンバーBugzは1999年に亡くなった。彼はSwiftyの加入を推していた人物でもある。残された仲間たちが、どのような6人として前へ進むかを決め直す契機となった。


先に扉を開けた者が、仲間を呼ぶ。
誰かがメジャーへ進んだら、仲間も引き上げる。『The Marshall Mathers LP』の大成功を経たEminemは、その約束をShady Recordsのアルバムという形へ変える。


2001年6月19日。D12の名で。
デビュー作は全米アルバム・チャートの首位へ。Eminemの次のソロではなく、Proof、Bizarre、Kuniva、Swifty、Kon Artisと共に作った集団の作品が、世界へ届いた。
D12 / DEVIL’S NIGHT

D12のデビューであり、Shady Recordsの最初のアルバム。スターの名声とDetroitの地下シーンが、ここで同じレコードになる。
『Devil’s Night』を貫くのは、一人の告白よりも、話者が交代するたびに空気が変わる面白さである。脅し、薬物、性的な誇張、ホラー、くだらない笑い。題材は共通していても、全員が同じようにラップするわけではない。
入口には「Purple Pills」と「Fight Music」がある。一方、Kon ArtisとKunivaの連携、Swiftyが牽引するフック、Bizarreの逸脱、Proofの存在感は、アルバムを通してこそ輪郭がはっきりする。
D12 / DEVIL’S NIGHT
2001年の編成を基準に紹介する。Denaun Porterは本作での活動名Kon Artis、Swifty McVayは当時のSwift表記も併記する。
D12=Dirty Dozen。人数を12人に増やすのではなく、6人に二つの名前を与える。
ただし名前の使い方は一律ではなく、本名とラップ名の対置も含まれる。[02] [03]
01DeShaun Holton
Proofがいたから、仲間が集まった。
DetroitのMCたちを結びつけた中心人物。フリースタイルやバトルの現場で培った存在感と、人の持ち味を引き出す役割は、Eminemのステージ上の相棒という説明だけでは捉えきれない。
ブックレットの綴りはDerty Harry。資料ではDirty Harryとも表記される。
「Purple Pills」での短い登場と「Fight Music」のVerseを入口に。粗さを残した声の印象は、当時のRapReviewsでも取り上げられている。
Purple Pillsの解説へ →
02Rufus Johnson
競うのは速さだけではない。
自分も笑いの対象にする悪趣味な人物像が、D12のブラックユーモアを決定づける。「Bizarre (Skit)」から「Nasty Mind」へ続く流れでは、彼の居心地の悪い笑いが曲の中心になる。
当時のブックレットとUMJプロフィールでPeter S. Bizarreを確認できる。
「American Psycho」の第2Verse。緊迫した枠を壊す間の取り方と、極端な内容の組み合わせに注目。
American Psychoの解説へ →
03Von Carlisle
言葉を投げ、仲間の声を受ける。
Kon ArtisとのDa Brigadeを経たMC。「Shit Can Happen」の第2Verse、「Instigator」の冒頭、タイトル曲のBugzへの言及と、作品の骨格を支える場面が多い。
2001年ブックレットはRondell Beene。UMJプロフィールではHannz G.に相当する「ハンズ・G」も使われる。
Kon Artisとの連携を「Blow My Buzz」で聴くと、単独の見せ場とは違う役割が分かる。
Instigatorの解説へ →
04Ondre Moore
フックまで引き受ける、もう一人の推進役。
本作の表記にはSwiftも使われる。Bugzが加入を推していた人物で、単純に「Bugzの代役」と呼ぶと当事者の証言を取りこぼす。「Instigator」ではフックとVerseを担う。
SwiftとSwifty McVayの組み合わせは当時ブックレットに印刷されている。本ページではSwifty McVayに統一。
「Nasty Mind」の最初のVerseと「Instigator」のフックを続けて聴く。勢いを作る役と、曲を覚えさせる役の両方が見える。
Instigatorの解説へ →
05Denaun Porter
マイクの前にも、ビートの内側にも。
2001年のラップ名はKon Artis。後年Mr. Porterとして知られるプロデューサーでもあり、「Shit Can Happen」「That’s How…」を制作。自作のビートに入る声まで含めて、D12の音を形作った。
本名とラップ名を対置する命名。すべての別名が架空人物の名前というわけではない。
「Fight Music」の冒頭と「Shit Can Happen」の第1Verse。Kunivaとの組み合わせも、声を覚える手掛かりになる。
Shit Can Happenの解説へ →
06Marshall Bruce Mathers III
スターの席から、クルーの一員へ。
メジャーへの扉を開いた人物であり、本作のエグゼクティヴ・プロデューサー。だが全曲のVerseを独占せず、「Nasty Mind」や「Instigator」では仲間が中心を担う。
Slim Shadyはソロ作品にも登場する別人格。D12では、その仕組みを仲間も共有する。
「Fight Music」の最後では、曲の攻撃性を若者と社会の対立へ広げる。「Girls」では逆に、一人の個人的な怒りへ戻る。
Fight Musicの解説へ →D12 / DEVIL’S NIGHT

IN MEMORY / 1999.05.21
Bugz、本名Karnail Pitts。D12の初期を支えたDetroitのMCで、メジャー・デビューを迎える前の1999年5月21日に命を落とした。彼を単に「亡くなった元メンバー」と片づけると、デビュー時の6人がどう形になったのかも見えなくなる。
[05]2015年のSwayとのインタビューで、KunivaはSwiftyをBugzの代役とする説明を訂正している。Bugzは生前からSwiftyの加入を望んでおり、加入の動きはすでにあった。その喪失を受け、Eminemが自分もメンバーになりたいと申し出た、というのがKunivaの回想である。
[04]この経緯を踏まえると、成功したEminemが空いた席を機械的に埋めた話ではない。仲間を失った集団に、自分も加わって進もうとした決断として見えてくる。本作のタイトル曲でKunivaがBugzに触れる瞬間も、その記憶から切り離せない。ブックレットの献辞にもBugzの名が記され、作品そのものに追悼の意思が残されている。
D12 / DEVIL’S NIGHT
THE NIGHT BEFORE HALLOWEEN
Devil’s Nightは、Halloweenの前夜、10月30日を指す呼び名である。Detroitでは、とりわけ1980年代に深刻化した放火問題と強く結びついた。軽いいたずらの範囲を超え、建物の焼失や負傷、命の被害を生んだ歴史であり、街全体の住民が喜んで参加した行事と描くのは誤りである。
同時に、地域にはそれを止めようとする取り組みがあった。Angel’s Nightでは住民の見回りや通報が行われ、行政と地域が被害の抑制に動いた。「燃える街」というイメージだけでDetroitを語ると、その暮らしと努力を消してしまう。
[06]D12はこの言葉の不穏さを、クルーのキャラクターをまとめる看板として使う。燃えるマッチブックのジャケットと過激な語りは、夜のイメージを強める。ただし作品上の演出と、都市が経験した実際の被害は同じではない。ここではタイトルの連想を読み解きながら、その二つを分けて捉えたい。
D12 / DEVIL’S NIGHT
『The Marshall Mathers LP』がEminem個人の名声と社会の反応を扱ったのに対し、『Devil’s Night』はその成功の先で仲間をどう見せるか、という別の課題を引き受ける。MMLPの「Under the Influence」にはすでにD12が登場し、「Amityville」ではBizarreが異様な存在感を残していた。
Universal Music Japanは、誰かがメジャー・デビューを果たしたら他の仲間を集めるという約束を、本作の背景として紹介している。名声を得た後に友情を飾り付けたのではなく、以前からの関係を作品と契約に結びつけたのである。
[07]MMLPの物語を読む →
EminemとPaul Rosenbergがレーベルを設立。ソロ活動とは別に、新しいアーティストを出すための器が生まれる。
最初の契約アーティストD12が『Devil’s Night』を発表。Eminemの知名度だけでなく、クルーの顔と声を届ける段階へ。
本作のスキットにも登場したObie Triceが『Cheers』へ。D12のデビューは、Shadyの人脈を知る入口にもなった。
D12 / DEVIL’S NIGHT

本作の音を理解する鍵は、「誰がラップしたか」と「誰がビートを作ったか」を分けて見ることだ。Eminemはエグゼクティヴ・プロデューサーとして全体を束ね、多くの曲を制作する。一方、Kon ArtisはDenaun Porterとして制作欄にも現れ、Dr. Dreの曲はアルバムの別の柱となる。
録音クレジットにはFerndaleの54 Sound、DetroitのVanguard、Los AngelesのRecord Oneが挙がる。Detroit側の仲間と演奏家の蓄積に、Dr. Dre側の制作陣が合流する。単一の「Eminemの音」で片づけるより、曲ごとに制作チームを追う方が違いを捉えやすい。
[03] [30]構成を整えるラッパー/制作者
「Purple Pills」のフック、「American Psycho」の演技、「Girls」の個人的な怒り。作曲・制作・声の出し方を横断しながら、曲ごとに役割を変える。
4曲に通る、もうひとつの骨格
「Nasty Mind」「Ain’t Nuttin’ But Music」「Fight Music」「Revelation」。Mike ElizondoやScott Storchらの演奏と共に、歌、リレー、ロック的な反抗を支える。
Da BrigadeからD12へ
「Shit Can Happen」と「That’s How…」の主制作を担当。Kon ArtisとしてVerseも担い、他曲のドラム・プログラミングにも参加する。
演奏とプログラミングの細部
Jeff Bassのベース、ギター、鍵盤、DJ Headのドラム・プログラミングが多数の曲に残る。共同制作と演奏クレジットを混同せず見ると、音の層が分かる。
集団曲では、優れたVerseを並べるだけでなく、誰から誰へ渡すかが曲の印象を決める。「Shit Can Happen」は4人、「American Psycho」は3人、「Fight Music」は6人。人数の変化そのものが、長いアルバムの起伏になる。全員がすべての曲で同じ分量を担当しているわけではない。
D12 / DEVIL’S NIGHT
Shady Records公式の順序を基準に、5つの短い導入・スキットと隠しトラック「Girls」まで、全19曲。[01] [03] [13]
公的な注意喚起を思わせる語り口が、これから始まる内容との落差を生む。Eminemのソロ作にあったPublic Service Announcementの形式を、D12のアルバムへ持ち込む冒頭である。話者としてクレジットされるのはJeff Bass。音楽が始まる前から、真面目な建前とふざけた本音の距離が示される。
この短い導入を飛ばすと、続く「Shit Can Happen」の威嚇が突然始まったように聞こえる。まず注意書きそのものを茶化し、その後でクルーが登場するという順番に、Shady作品らしい劇場の作り方がある。
LISTEN FOR
曲としてのVerseではなく、語りの形式と次のドラムの入り方を聴く。
実質的な幕開けはEminemの独演ではない。Kon Artis、Kuniva、Swifty、Eminemという順番で、同じビートの上に威圧的な言葉を積み上げる。Kon ArtisとKunivaの旧ユニットDa Brigadeのつながりが見える曲で、Porterは後年のインタビューで、もともとBrigadeの楽曲だったと説明している。
Eminemは最後に入る。彼の登場を待つ構成というより、それまでに3人が作った緊張を受け取る配置である。制作を担うPorter自身が最初に声を出すことも、このアルバムが仲間の顔見せだけでなく、仲間の持ち味を持ち寄る作品であることを示している。
LISTEN FOR
Kon Artisの第1VerseとKunivaの第2Verseを続けて聴く。二人の受け渡しがD12の入口になる。
銃を持ち歩く衝動をフックに据え、6人がそれぞれの危険な場面を連ねる。武器を単なる強さの記号として使うだけでなく、常に脅威を感じる人物の落ち着かなさを反復する構造だ。「Shit Can Happen」の外向きの威嚇から、手元の銃に依存する人物像へ焦点が近づく。
Jeff Bassのベース、ギター、鍵盤とDJ Headのドラム・プログラミングが、長いマイク・リレーの土台を作る。Bizarreの箇所にはLimp Bizkitへの言及もあり、アルバム末尾「Girls」で表面化する対立の気配が、すでに本編に入り込んでいる。
LISTEN FOR
誰が最も過激かだけでなく、同じフックの前後で話者の態度がどう変わるかを追う。
性的な口説きの場面を、下品な身体のギャグが壊していく。Bizarreの人物像は、強そうな男を演じることだけでは成立しない。自分自身も笑いの対象になり、場の空気を気まずくすることが持ち味である。
銃の緊張が続いた「Pistol Pistol」から、性をテーマにした「Nasty Mind」へ移る継ぎ目。次の曲でBizarreが前に出るための、小さな予告編にもなっている。
LISTEN FOR
前後の楽曲とセットで聴くと、暴力から性的なブラックユーモアへ話題が切り替わる。
Truth HurtsとBizarreの声を組み合わせたフックが、露骨な性的自慢と倒錯した笑いを囲む。Verseの中心はSwifty、Kuniva、Kon Artis、Bizarre。EminemがVerseで締める曲ではなく、この4人と女性ヴォーカルで組み立てられている点が重要だ。
Dr. Dreのプロダクションに、Mike Elizondoの演奏とCamara Kambonの鍵盤が加わる。滑らかな歌の枠と粗野な話者の差が、内容の居心地の悪さを増している。最後のBizarreが、性的な誇張をさらに異様な方向へ押し広げる。
LISTEN FOR
冒頭のSwiftyから最後のBizarreまで、話者が替わるたびにフックの受け取り方が変わる。
ポップ・スターや有名人を標的にしながら、「音楽にすぎない」という弁明をタイトルそのものに置く。Dr. Dreのビートの上で、悪口を重ねる行為と、それを批判された時の言い訳が同居する。曲名は免罪符であると同時に、その免罪符を振りかざすD12自身の態度も露出させる。
Scott Storchの鍵盤、Mike Elizondoのベースとギターが参加。Eminemの名指しやパロディだけを拾うより、他のメンバーが同じ「何を言っても曲だから」という枠組みをどう使うかを追いたい。アルバムの表現と検閲を考える際の中心曲である。
LISTEN FOR
フックの弁明とVerseの挑発を往復して聴く。タイトルを作者の無条件な正当化と受け取る必要はない。
全員参加の大編成から、Eminem、Bizarre、Kon Artisへ人数を絞る。常軌を逸した語り手が次々に現れるため、一人の殺人者の筋書きを読むというより、異なる悪夢を切り替えていく感覚が近い。Jeff Bassの演奏とDJ Headのドラムが、芝居がかった不穏さを支える。
Bizarreの第2Verseは、Eminemが用意した異常さの基準をさらに崩していく。Kon Artisが続くことで、Slim Shadyの独白には収まらない集団のホラーになる。後の『D12 World』に収録された「American Psycho II」とは別の曲で、参加者も同一ではない。
LISTEN FOR
EminemからBizarreへ替わる瞬間に注目。ラップの速さよりも、言葉と間の落差が強く働く。
短い会話を挟み、続く「That’s How…」の攻撃的な言い回しへ橋を架ける。前曲のホラー仕立てを一度ほどき、仲間同士が言葉を交わす距離へ戻す役割がある。
同名のスキットと楽曲は別トラックである。曲一覧ではどちらも残すことで、笑いと敵意が途切れずにつながるアルバムの編集が見えやすくなる。
LISTEN FOR
08と09を続けて再生し、話し言葉が曲の決め文句へ変わる接続を確かめる。
直前のスキットから引き継いだ言い回しを、6人の対立的なVerseを束ねる装置として使う。誰か一人のストーリーが進むのではなく、相手への言い返しが次の話者へ受け渡される。D12の会話的な集団ラップを捉えやすい曲だ。
Porterが主制作、Eminemが共同制作という組み合わせは、役割が固定されていないことを示す。Jeff Bassのベース、ギター、鍵盤も加わり、前半の無機質な怖さから、口論の熱を帯びた空間へ移っていく。次の「Purple Pills」の明るい入口との落差も大きい。
LISTEN FOR
フックへ戻るたびに誰の言葉が残るか。Kon Artisを制作とラップの両面から聴く入口に。
薬物による酩酊や混乱を、覚えやすいフックと色彩的なイメージに乗せたシングル。登場人物は整然と体験を説明するのではなく、見栄や幻覚めいた連想を連発する。軽快に聞こえる枠組みと、口にされる内容の危うさが、この曲の二重性を作る。
Ray Galeのハーモニカが、アルバムの他の曲にはない輪郭を与える。Proofの登場、Kon ArtisとKunivaの連携、Bizarreの脱線を追うと、Eminemのフックだけでは捉えられない構成が見えてくる。放送用の「Purple Hills」は曲名だけでなく言葉も変更された別編集である。
LISTEN FOR
まずフックを覚え、その次にProofとKon Artis/Kunivaの受け渡しへ耳を向ける。
曲名は喧嘩を想起させるが、中心にあるのは音楽が怒りを増幅する関係そのものだ。Kon Artisから始まるリレーを、Eminemの最後のVerseが受け止め、若者、批評家、世代間の対立へ論点を広げる。仲間内の威嚇から、音楽が社会でどう受け取られるかへ視野が変わる。
Bizarreは早い段階で極端なブラックユーモアを差し込み、他のメンバーはそれぞれの攻撃性を積み上げる。Dr. Dre、Mike Elizondo、Scott Storchの音作りは、6人の声を同じ圧力の中に置く。映像では群衆とクルーの存在感が、楽曲の集団性をさらに押し出している。
LISTEN FOR
6人を一曲で覚えるならここ。最後のEminemだけを切り出さず、そこへ至る5人のVerseを聴く。
Instigatorは、争いをけしかける人物を指す。Kunivaは噂や嘘で他人を衝突させる役を引き受け、SwiftyはフックとVerseでその挑発性を前へ押し出す。直接殴り合う「Fight Music」に続けて、争いを発生させる言葉そのものが主題になる。
ラップの中心を担うのはKuniva、Swifty、Kon Artis、Proof。Eminemの名前が制作欄にあることと、Eminemが主役のVerseを持つことは同じではない。Porterのドラム・プログラミングとJeff Bassのベース/鍵盤が、4人の悪意ある語りをまとめる。
LISTEN FOR
SwiftyのフックとKunivaの冒頭を対にする。誰が曲を作り、誰が曲を牽引するかの違いが分かる。
Dina Raeのヴォーカルを軸に、メンバーがpimpという誇張された男性像を演じる。性的な優越感と支配を売り物にする人物の言葉が続くため、登場人物の価値観と作品を読む側の評価は分けて考えたい。女性の歌声は背景に留まらず、長いリレーをつなぐ目印となる。
Proofを含む複数の声とDina Raeの掛け合いが、一方通行のソロとは違う会話を作る。日本の読者にはFUJI ROCK ’01との接点も重要で、当時の公式セットリストにはBizarreのVerseを省略した演奏と記録されている。スタジオ版とライブ版の編成差が具体的に分かる曲である。
LISTEN FOR
Dina Raeが戻ってくる位置を目印に、各Verseを区切る。ライブの省略箇所とも比較できる。
Buzzはここでは酔いや高揚の感覚。語り手たちは自分たちの気分を妨げる相手を拒み、敵意と気だるさを同居させる。「Purple Pills」が色鮮やかな混乱なら、こちらはその気分を保とうとする仲間の内向きな論理である。
Kon ArtisとKunivaの組み合わせを、単独Verseの優劣ではなく、掛け合いの気持ちよさとして聴きたい。Porterのドラム・プログラミングとJeff Bassの演奏が土台にあり、激しい言葉を速く畳みかけるだけではないD12の動きが見える。
LISTEN FOR
Kon ArtisとKunivaの連携を「Purple Pills」と比較。フックを挟んだ声の距離に注目する。
ここで登場するObie TriceはD12の7人目ではない。スキットという短い枠で別のラッパーを紹介し、アルバムの世界を6人の外へ広げる。クレジットにはRondell Beene、すなわちKunivaの別名も現れる。
後にShady Recordsから『Cheers』を発表するObieの声を、2001年のD12作品に聴けることがポイントである。次のタイトル曲へ進む前に、クルーのデビューがレーベル全体の入口でもあったと分かる挿話だ。
LISTEN FOR
本人の名乗りとKunivaの存在を確かめる。短いからこそ、D12との声の違いが残る。
タイトル曲ではDevil’s Nightという言葉が何度も戻り、個々の乱暴な人物像を一つの夜へ集める。都市史の解説ではなく、その名が持つ不穏さをクルーの自己紹介へ変える曲である。現実の放火問題を、そのまま歌詞の舞台設定や作者の行動と同一視することはできない。
KunivaのVerseにはBugzの名が現れる。架空の暴力的な誇張が続く中で、実際に失った仲間の記憶が入り込む瞬間だ。アルバム名を叫ぶフックの背後に、デビューを一緒に迎えられなかった人物がいることを思い出させる。
LISTEN FOR
Kunivaのパートとフックへの戻りを聴く。「D12」という看板に、喪失の記憶が重なる。
レーベル側の人物Steve Bermanとのやり取りは、『The Marshall Mathers LP』から続くShady作品の仕掛け。ラッパーの言い分だけで閉じていた空間へ、作品を扱うビジネスの声を割り込ませる。本人名で登場するが、スキットは演出された会話として聴く必要がある。
タイトル曲の自己宣言の後、最後の本編曲「Revelation」の前という位置も効いている。自分たちを売り出す作品の中に、その商品性や内容へ反応する人物を登場させることで、アルバムは自分自身をからかう。
LISTEN FOR
MMLPの同名スキットと聴き比べる。人物の継続が、別のアルバムを同じ世界につなぐ。
学校や教育への反発を劇化し、Pink Floyd「Another Brick in the Wall, Part 2」を連想させる反教育的なフックや教師の声を取り込む。引用的な演技の枠を通して、若者の反抗と大人の抑圧を漫画的に膨らませる楽曲だ。
Dr. Dreの制作にMike Elizondoのギター、Scott Storchの鍵盤が加わる。全員の声が並ぶ本編の終着点として、「音楽が若者を悪くするのか」というアルバムを囲んだ問いを、学校という分かりやすい舞台へ引き寄せる。この後の「Girls」は、集団の物語とは違う個人的な対立へ進む。
LISTEN FOR
ロックを思わせる構えとラップの切り替えを聴く。最後の本編と隠しトラックの境目にも注目。
Limp Bizkit、とりわけFred DurstとDJ Lethalへの不信を前面に出す、Eminemのソロ曲。Everlastとの応酬を背景に、味方だと思っていた相手がどう振る舞ったかという怒りが語られる。D12名義のアルバムでありながら、ここでは語り手が一人へ絞られる。
Luis Restoの鍵盤、Jeff Bassのベース、DJ Headのドラム・プログラミングが参加。本編の集団劇からはみ出す私信のような位置にあり、隠しトラックとして扱われたことも、その異質さを強める。歌詞中の告発はEminem側の主張であり、そのまま対立の全事実にはならない。
LISTEN FOR
「Revelation」までと分けて聴く。6人の結束から一人の怒りへ、終わり方が変わる。
D12 / CROSS-TRACK DOSSIER / 2001
スターの名前は、ニュースの記憶にも、悪趣味な比喩にも、仲間への敬意にもなる。19曲を横断すると、6人のブラックユーモアが同じ方向を向いていないことが見えてくる。
性的な筋書きや暴力の比喩は、登場人物の私生活を記録した文章ではない。「Girls」の出来事の説明も、Eminem側の主張として読む必要がある。すべての実名言及を同じ「ディス」にまとめると、曲ごとの狙いが見えなくなる。[37] [38] [39]

FILE 01 / POP / PARODY
EminemのVerseはBritneyのヒット曲を連想させる言葉遊びと、架空の性的なゴシップを混ぜる。JustinやBen Affleckまで巻き込むのは、彼女が当時のポップ文化の中心にいたことを利用した誇張だ。現実にその出来事が起きたという話ではない。[39]

FILE 02 / POP → BEEF CONTEXT
03:不可能な変化のジョーク / 06:ポップの戯画化 / 19:対立の文脈での嘲笑。Girlsでの主な標的はFred Durstであり、Christina本人を同じビーフ相手へ固定しない。
03 Pistol Pistol / 06 Ain’t Nuttin’ But Music / 19 Girls
Pistol PistolではBizarreの不可能な変化の列挙に、06ではEminemの挑発に登場する。GirlsではFred Durstをからかう材料として持ち出される。同じChristinaの名でも、銃の誇張、ポップへの攻撃、実際の対立に絡む嘲笑で役割が変わる。[40][39][41]

FILE 03 / CELEBRITY IMAGE / HORROR
06:悪趣味なジョーク / 07・16:Thriller、Beat Itの作品イメージを参照。
06 Ain’t Nuttin’ But Music / 07 American Psycho / 16 Devil’s Night
Bizarreは06でJacksonの世間的イメージを悪趣味なジョークに使い、Kon ArtisはAmerican PsychoでThrillerをホラーの語彙として借りる。タイトル曲のBeat Itの衣装と手袋も作品への連想で、ここは実名そのものではなくイメージの引用。三つの使い方を分けて聴きたい。[37]
THE JOKE ENDS. THE ARGUMENT CONTINUES.
仲間内の誇張から、Eminem自身の不満を語る隠しトラックへ。Fred Durst、DJ Lethal、Everlastは、ここでは具体的な関係と発言をめぐる登場人物だ。

FILE 04 / ACTUAL BEEF / EMINEM’S ACCOUNT
19:Eminem側が語る、Limp Bizkitとの対立。
03 Pistol Pistol / 06 Ain’t Nuttin’ But Music / 19 Girls
Pistol PistolでBizarreがLimp BizkitとFredを一緒に名指しし、06にはLethal。GirlsでEminemは、曲への参加をめぐる約束と、LethalのMTVでの発言に不満を述べる。これは彼の側から語った経緯であり、約束の内容まで全当事者が一致した確定事実としては扱わない。[41][18]

FILE 05 / ACTUAL BEEF / WHITEY FORD
06・19:性的な嘲笑と、Eminemが語る対立の背景。
06 Ain’t Nuttin’ But Music / 19 Girls
06ではLethalと組にした性的な嘲笑の対象。GirlsではWhiteyとも呼ばれ、Eminemとの対立がFredとLethalを責める理由の中心に置かれる。一方、B-Realは中立だった人物として評価される。名前が出ることと、攻撃対象になることは同じではない。[41][18]
パロディ
POP / PARODY
Britneyをめぐる架空の性的な筋書きに組み込まれる。Justinは下の名前、Benは続くAffleckで指示される。実際の交際・出来事の報告ではない。
POP / PARODY
BizarreがEminemとの好みの違いを演じ、ボーイバンドへ話を飛ばす。KunivaはBaha Menのヒット曲の犬のイメージを威嚇へ転用する。
NEWS / PARODY
Proofの短い場面描写がClintonのスキャンダルへ落ちる。直前までの街のトラブルが、政治とテレビの記憶にも接続する。
R&B / PARODY
BizarreがSisqóのヒット曲の衣装イメージを持ち込み、所属グループDru Hillへも攻撃を広げる。MV出演者と歌詞の名指しは別に数える。
ブラックユーモア
NEWS / BLACK HUMOUR
EminemとProofが、薬物や当時のゴシップを連想させる名前を連結する。歌詞上の誇張を各人の実生活の確定事実として読まない。
NEWS / BLACK HUMOUR
06 Ain’t Nuttin’ But Music / 14 Blow My Buzz
Proofは報道とスキャンダルの連想を短く畳み掛ける。Blow My BuzzではBizarreがJesse Jacksonを自分の呼び名に借りる。
TV / POP CULTURE
BizarreのGary、Todd、Danaは『Diff’rent Strokes』の出演者を指す。テレビの記憶と当時の報道を一つの悪趣味なジョークへ圧縮する。
TV / BLACK HUMOUR
Pee-wee HermanはPaul Reubensの芸名・キャラクター。Proofは公の場とスキャンダルの連想をジョークに使うが、役と本人の現実を同一視しない。
SPORT / IMPOSSIBLE CLAIM
03 Pistol Pistol / 10 Purple Pills
Bizarreの銃の効力を誇張する列挙にHolyfieldとReeve。ReeveはPurple Pillsでも登場する。障害を笑いに使う表現を、回復についての事実へ変換しない。
R&B / COMPARISON
R&B歌手同士の敬意や、IkeとTinaの関係を、銃なら何でも変えられるというブラックユーモアの連鎖に置く。
HORROR / BLACK HUMOUR
BizarreはWacoとKoreshを持ち出して、架空のホラー的世界を宣言する。Michael Myersなどの架空人物とは区別する。
POP / BLACK HUMOUR
11 Fight Music / 18 Revelation
Fight MusicではEminemの呼び掛け、RevelationではBizarreの荒唐無稽な家族設定に登場。後者は本人の父親についての伝記ではない。
ROCK / BLACK HUMOUR
EminemはCobainの死を音楽への批判と結び付ける過激な比喩に使い、BizarreはLil’ Bow Wowを架空の犯罪場面へ置く。いずれも実際の出来事の説明ではない。
比較・比喩
TV / COMPARISON
『Cheers』でのTed Dansonの役柄を、飲酒の比較に使う。役と本人の現実を同一視しない。
MEDIA / CRITIQUE
報道の参照/批判。これは比較のジョークではなく、メディアを責める場面での言及。Diana本人とのビーフではない。
Swifty McVayがメディアを責める場面で名前を出す。死の責任に関する歌の断言は、彼の批判的な語りであり、因果関係の検証結果ではない。
VOICE / COMPARISON
02 Shit Can Happen / 05 Nasty Mind
Kon ArtisはMariahの高音を言葉の飛距離に重ねる。Nasty MindではBizarreが行為の後の疲弊をTysonに殴られた姿へたとえる。
RAP / COMPARISON
Ma$eの宗教活動とラップ、ShyneとBiggieの声の比較が、不可能な変化を並べるBizarreのVerseに置かれる。
RAP / COMPARISON
Proofが、声や振る舞いを借りるラッパーを批判する比較対象。二人に対する本格的なビーフを宣言する場面ではない。
HORROR / COMPARISON
Kon ArtisはBo Derekを韻の比較対象に使う。実在人物の名を、Michael Myersなど架空人物の引用とは分けて読む。
POP / RIDICULE
ラップへの嘲笑。実際の対立の経緯を述べる場面ではない。
Eminemの幻覚描写が、Vanilla Iceのラップへの嘲笑へ飛ぶ。薬物の混乱と音楽界へのからかいが同じVerseに混在する。
NEWS / VIOLENT METAPHOR
Kunivaが実在した暴力事件の被害者の名を、相手への加害の比喩に転用する。都市や人種をめぐる痛ましい記憶を使う、作品の不快さが表れる箇所だ。
RAP / GENERATIONAL MARKER
1990年代を示す時代の参照。名前が出るだけで、敬意の表明とは決めつけない。
Obie Triceが地下で活動してきた長さを示す時代の目印。新人の登場場面にも、1990年代のラップの記憶が埋め込まれている。
RAP / COMPARISON
Fred Durstの音楽活動を責める場面で、Method Manとの共演が比較材料として持ち出される。ここでMethod Man本人への攻撃や、明確なリスペクトの表明と決めつけない。
実際の対立・ビーフ
RAP / ACTUAL BEEF
EminemはDilated Peoplesの名称を崩して批判し、雑誌での発言に反応したという経緯を語る。これはEminem側の説明であり、全当事者が一致した事実として扱わない。
歌詞の固有名詞はOHHLAとアルバム転記を照合し、06はAWA・Vagalume、19はVagalumeでも確認した。アルバム転記にない08の会話は別資料で補っている。[52]省略名は文脈を併記し、特定できない名前を勝手に補っていない。[37] [38] [39] [42] [41]
クルーの会話・名乗りが中心。外部の著名人の明瞭な実名言及は確認できない。
Mariah Carey
Jay-Z / Tupac Shakur / Limp Bizkit / Fred Durst / Evander Holyfield / Ma$e / Shyne / The Notorious B.I.G. / R. Kelly / Aaron Hall / Christopher Reeve / Ike Turner / Tina Turner / Christina Aguilera
クルーの会話・名乗りが中心。外部の著名人の明瞭な実名言及は確認できない。
Mike Tyson
Britney Spears / Christina Aguilera / Justin (context: Timberlake) / Ben Affleck / Whitney Houston / Everlast / DJ Lethal / *NSYNC / Backstreet Boys / Michael Jackson / Gary Coleman / Todd Bridges / Dana Plato / Baha Men / Robert Downey Jr. / Bobby Brown / Jesse Jackson / George Michael / Tevin Campbell / Pee-wee Herman / Paul Reubens / Princess Diana / Ted Danson
Michael Jackson / David Koresh / Bo Derek
クルーの会話・名乗りが中心。外部の著名人の明瞭な実名言及は確認できない。
Dr. Dre / Bill Clinton
Christopher Reeve / Vanilla Ice
Dr. Dre / Sisqó / Dru Hill / Rodney King / Malice Green / Liberace
クルーの会話・名乗りが中心。外部の著名人の明瞭な実名言及は確認できない。
クルーの会話・名乗りが中心。外部の著名人の明瞭な実名言及は確認できない。
Jesse Jackson
Obie Trice / Fu-Schnickens / Chi-Ali
Kurt Cobain / Lil’ Bow Wow / Bugz / Michael Jacksonの作品イメージ(Beat It)
Steve Berman
Liberace
Limp Bizkit / B-Real / Dilated Peoples (allusive name distortion) / DJ Lethal / Everlast / Whitey Ford / Fred Durst / Christina Aguilera / Royce da 5’9” / Dr. Dre / Xzibit / Mel-Man / Method Man
Carson、Cousey、Jermaineの省略名は人物を特定せず、Blow My BuzzのMansonもSwiftyの別名として扱う。架空の人物やVersaceのような姓・ブランドの参照は、実在人物の一覧へ無条件に足していない。
D12 / DEVIL’S NIGHT
まずは登場位置が分かる曲から。声の形容は聞こえ方の目安であり、音域や能力の順位ではない。声質については、2001年のRapReviewsによる描写も手掛かりにしている。[21]
D12 / DEVIL’S NIGHT

覚えやすいフック。紫色の風景。
そのポップな入口が、放送の壁にぶつかる。
「Purple Pills」は薬物をめぐる混乱を、キャッチーな曲の形で差し出した。本作を広く知らせたシングルで、英国では最高2位を記録。だが、その耳に残る形こそが、薬物の言葉を大勢へ届けるという問題にも直結した。
[10]放送用には「Purple Hills」が作られ、pillsをhillsへ変えるだけでなく、歌詞も調整された。現在Shady Recordsが公式映像として案内するのも、この「Purple Hills」である。アルバムの音源と同一の言葉が流れるとは限らない。
[16]Purple Hills — 公式MVを見る ↗アルバムでの曲名。酩酊と混乱、突飛な自己像を、明るいフックの中へ詰め込む。Ray Galeのハーモニカも特徴となる。
ラジオ/映像向けに言葉を変更した版。単なる無音処理ではなく、発音やイメージの近い語へ置き換える編集が行われた。
Eminemのフックを帰る場所にしながら、Bizarreの悪趣味、Proofの存在感、Kon ArtisとKunivaの連携、Swiftyの勢いが入り込む。声を覚えた後に聴き直すと、最初は一塊だった曲が、仲間の出入りする場へ変わる。
当時のLos Angeles Timesは、MTVが「Purple Hills」の放送を深夜に限定したと報じている。曲名を変えた事実と、放送上の制限がなくなったかどうかは別の問題だった。
[18]D12 / DEVIL’S NIGHT
群衆へ届くのは、
ひとりのラップではなく、6人分の圧力。
「Fight Music」は「Purple Pills」と違う入口を作る。薬物をめぐる陽気な混乱の代わりに、怒りが音楽を介して増幅する様子を前面へ出す。Dr. Dreのプロダクションに6人が順に乗り、誰が声を出しても同じクルーの曲であるというまとまりを保つ。
最後のEminemは、若者の怒りや批評家の偽善へ話を広げる。彼だけが曲の意味を持っているのではない。それまでの5人の言葉が作った高ぶりを、曲の聴き手や社会へ向け直す配置なのである。
[03] [32]Fight Music — 公式MV〈BET版〉 ↗
映像は、個人のクローズアップだけでなくクルーと群衆の関係を見せる。英国シングル・チャート最高11位。「Purple Pills」の最高2位とは異なる結果だが、D12の集団性を把握するうえでは対になる曲である。[10] [17]
D12 / DEVIL’S NIGHT

「American Psycho」を入口にすると、D12のホラー的な表現が見えやすい。現実離れした人物が暴力やタブーを誇張し、別の人物がさらに上乗せする。Slim Shadyの独白にも似ているが、話者が複数いることで、異常さを競い合う会話になる。
ここでBizarreは、Eminemの声の代用品ではない。リズムの緊張を変え、笑うべきか引くべきか迷わせる言葉を置く。速く、巧みに、勝つというラップの物差しだけでは説明しにくい役割を担っている。
こうした作品はhorrorcoreという語で論じられることもある。ただし本作にはポップなシングル、性的な笑い、バトル的な威嚇も混在する。ひとつのジャンル名より、「恐怖」「笑い」「不快感」をどう行き来するかに注目したい。
[21] [27]架空の人物として読むことは、すべての表現を無条件に肯定することではない。作品の誇張を理解し、その誇張が何を笑いの対象にしているかを考える。この二つは両立する。
D12 / DEVIL’S NIGHT
背景にはEminemとEverlastの応酬がある。そこへ、Everlastと同じHouse of Painに所属していたDJ Lethal、そしてLimp BizkitのFred Durstとの関係が絡んだ。DJ Lethalがテレビで両者の対立について発言したことなどを、Eminemは自分への不忠実さとして受け止め、曲中で攻撃する。
2001年6月のlaut.de記事と、MTV報道を再録したHiddenSongsの説明は、この広がりを伝える。一方、曲中のVMAでの出来事と発言の時期には整合しない部分も指摘されている。歌詞だけから一本の確定した事件年表を作るべきではない。
[19] [20]「Girls」は中立的な報告書ではない。味方だと思っていた相手への失望を、侮辱や威嚇へ変えるディス曲である。誰が全面的に正しかったかを決めるより、親密さがあったからこそ生じた怒りと、仲間のアルバムを閉じるにはあまりに個人的な語りの関係を読む方が、この曲の位置を理解しやすい。
隠しトラックにした理由を説明する確実な制作証言は、この位置付けとは区別する必要がある。今の公式曲目には19曲目として明示されるが、当初の隠された曲という性格は残る。
D12 / DEVIL’S NIGHT
注意喚起の形式を茶化す。ソロ作品から続く入り口。
解説へ →性的な悪ふざけで、次のNasty Mindへ場面を切り替える。
解説へ →短い会話から、同名曲の攻撃的な言葉へ接続。
解説へ →D12の外の声を紹介する。Kunivaの別名もクレジットに現れる。
解説へ →音楽を売る側の人物を招き、作品を内側からからかう。
解説へ →Obie Triceの登場は、Detroitの人脈が6人だけで閉じていないことを示す。彼の2003年作『Cheers』へ続くShady Recordsの流れを、ここでは一分ほどの出番から覗ける。
Steve BermanはMMLPにも登場する。現実の音楽業界の人物を演出されたスキットへ取り込む形式が、EminemのソロとD12を同じShadyの世界へつなぐ。
MMLPのスキットと全曲解説 →D12 / DEVIL’S NIGHT
| 対象 | 記録 | 範囲・時点 |
|---|---|---|
| Devil’s Night | Billboard 200 首位2週 | 2001年7月21日付原誌の記録 |
| Purple Pills | UK最高2位 | Official Singles Chart |
| Fight Music | UK最高11位 | Official Singles Chart |
| 世界売上 | 400万枚と紹介 | 2021年のuDiscover記事。現在の累計ではない |
| 米国での実績 | Double Platinumと紹介 | 2014年Shady Records公式回顧。RIAAの現行検索結果とは区別 |
初週売上、通算売上、認定は別の指標である。約37.2万枚は発売直後の米国での販売規模を示す数字であり、全世界の販売数ではない。認定についても、レーベルの回顧記事と認定機関の記録を同一の出典として扱わない。
商業的な結果は、スターの知名度が入口になったことを示す。同時に、同じアルバムを6人の作品としてどう評価するかは、当時から意見が分かれた。チャートの首位と批評上の合意は同じものではなかった。
D12 / DEVIL’S NIGHT

JAPAN / 2001.07.29 / GREEN STAGE
2001年7月29日、FUJI ROCK FESTIVAL ’01のGreen StageにEminem & D12が出演した。Universal Music Japanが当時公開したセットリストには、Eminemのソロ曲に加えて『Devil’s Night』からの曲が明記されている。
FROM THE OFFICIAL SET LIST
ほかにD12参加の「Under the Influence」も演奏。

この演奏順では、序盤から「Shit Can Happen」「Pistol Pistol」「Pimp Like Me」が続く。Eminemの代表曲の合間に一曲だけ紹介した、という構成ではない。デビュー作を出したばかりのD12が、複数曲をまとめて日本の観客へ届けたことが分かる。
「Pimp Like Me」のVerse省略まで残る資料は、アルバムとライブを比較する手掛かりになる。海外チャートの紹介だけでは見えない、2001年の日本と作品の具体的な接点である。
[09]D12 / DEVIL’S NIGHT

本編は19曲。スキットを残し、最後のGirlsまで通して聴く。

2001年の日本盤。写真は帯付きプロモーション盤の商品写真。

後年のデラックスVinyl。Hell Fireカラー、追加4曲を収録。
| 版 | 見分ける手掛かり | 収録・発売情報 |
|---|---|---|
| 2001 標準本編 | 19曲 | Girlsを含む。本ページの曲順の基準。 |
| 当時の一部限定・地域版 | 追加ディスク等 | Shit on You / Words Are Weapons / These Drugsなど。後年初出の曲とは限らない。 |
| Clean / 放送用編集 | 言葉の変更 | Purple Hillsなど。単曲の放送版とアルバム全体のClean盤の仕様は区別する。 |
| 2006 日本再発 | UICY-6071 | 2006年4月19日。UMJ掲載の19曲。 |
| 2012 日本SHM-CD | UICY-20345 | 2012年8月1日。2001年のマスターを用いた再発。 |
| 2015 Vinyl再発 | Shady公式告知 | 2015年10月29日に案内。2001年の初回プレスとは別。 |
| 2021 Expanded Edition | 28曲 | 2021年6月18日。Freestyleほか9曲の追加。 |
| 後年 IVC Edition | 2LP / 追加4曲 | Freestyle / Words Are Weapons / These Drugs / Shit on You。限定3000枚と案内。 |

D12 / DEVIL’S NIGHT
7.5/10。メンバーごとの声の違いと、集団としての実力を評価。一部のビートには不満を示しつつ、Eminemによる慈善的な紹介にすぎないという見方を退けた。
[21]Nick Hornbyは、下品な笑いと攻撃性に強い拒否感を示した。売れていることと、批評家が表現に価値を見いだすことの距離が鮮明に表れた。
[22]技術や声の違いを聴けば、6人が同じビートを自分のものにする面白さがある。反対に題材へ注目すると、女性への侮辱、暴力、薬物、性的なタブーが繰り返されることに疲れを覚える人もいる。長さと反復は、集団の濃さにも、同じ冗談の引き延ばしにもなり得る。
MMLPとの比較も避けられなかった。ただし、一人の名声を掘り下げる作品の続きを期待すると、6人の競争や掛け合いを見落とす。評価の分かれ方を理解するには、この作品が何を目指したアルバムなのかを先に考える必要がある。
D12 / DEVIL’S NIGHT
Detroitのラッパーたちが作ったクルーで、Dirty Dozenの略称である。Eminemだけの企画ではなく、Proofを中心とした地下シーンのつながりを土台とする。
6人それぞれが別名・別人格を持ち、合わせて12という発想である。ただし別名の使い方は一律ではなく、本名と活動名を対にするメンバーもいる。
Proof、Bizarre、Kuniva、Swifty McVay、Kon Artis(Denaun Porter)、Eminemの6人。Swiftyは当時の印刷物でSwiftとも表記される。
ProofはDetroitの仲間を結びつけた中心人物で、2001年の6人の一人。Bugzは1999年に亡くなった初期メンバーで、Swiftyの加入にも関わった。二人を単にEminemの友人としてだけ捉えると、D12の歴史を見失う。
米国発売日は2001年6月19日。初期日本盤UICS-1014があり、2006年UICY-6071、2012年UICY-20345などの国内再発もある。再発日を作品の初発売日と混同しないようにしたい。
Halloween前夜の10月30日を指す呼び名で、Detroitでは放火問題の歴史とも結びつく。D12はその不穏なイメージを作品の看板へ使うが、都市の被害とフィクションの表現は区別する必要がある。
全曲のVerseを担当しているわけではない。「Nasty Mind」ではSwifty、Kuniva、Kon Artis、Bizarreが中心となり、「Instigator」でも他のメンバーが主要Verseを担う。制作参加とVerse参加は別である。
Purple Hillsは放送向けに曲名や歌詞を変更した版。音源の単なる表記違いではない。Shady Recordsが掲載する公式MVもPurple Hillsとして案内されている。
中心的な標的はLimp BizkitのFred DurstとDJ Lethal。Everlastとの対立が背景にある。Eminemのソロ曲であり、歌詞中の告発はEminem側の主張として読む必要がある。
2001年7月29日、Eminem & D12としてGreen Stageへ出演。公式セットリストにはShit Can Happen、Pistol Pistol、Pimp Like Me、Purple Pillsが掲載されている。
6人の声を覚えるならFight Music、ポップな入口ならPurple Pills、Kon ArtisとKunivaの関係ならShit Can Happen、Swiftyを追うならInstigator、Bizarreの個性ならAmerican Psychoが入口になる。
D12 / DEVIL’S NIGHT
作品情報はレーベルと原盤資料、チャートは公式記録や当時報道を優先。曲の読み方は本ページの解釈であり、作者の意図を断定するものではない。